阪神・近本光司は全面的に被害者なのか。そんな声が球界内から出始めている。
近本は9月3日のヤクルト戦(神宮)で9回、右脇腹に死球を受け、交代を余儀なくされた。近本は7月2日の巨人戦(東京ドーム)でも右脇腹に死球を受けて、右肋骨を骨折。戦線を離脱し、球宴も辞退した経緯があるだけに、阪神ベンチは騒然となった。
8月13日の同カード(甲子園)では、正捕手の梅野隆太郎が左手首付近に死球を受けて「左尺骨骨折」。今季絶望となっただけに、岡田彰布監督は試合後、ヤクルトに対し「そういうチームなんやろ。あきれるよなぁ」と怒りを爆発させた。
だがこれには、別の意見もある。打撃部門のタイトル争いを演じたことがある球界OBが言う。
「確かにヤクルト投手陣の技術力不足はある。だが、近本クラスの打者になれば、厳しくインコースを突かれることは想定しなくてはいけない。踏み込んでいくから、逃げられない部分もある。昔なら『よけるのがヘタだからだ』と大物投手から一喝されている。同じ場所に何度も当てられるのだから、少しは考えないと」
事実、巨人の長嶋茂雄終身名誉監督などは「バッターボックスでは、ボールをぶつけられることも頭に入れていた。相手が投げた瞬間、ボールの軌道を察知してかわす用意をしていた」と話していたこともあるのだ。スポーツ紙ベテラン記者が言う。
「もちろん投手はぶつけてはダメ。でも打たせないために必死で厳しいコースを突き、それで手元が狂う場合もある。交通事故でもあるように、加害者と被害者が100対0とは限らないのでは」
かつて野球界にはベンチから「ぶつけろ」というサインが出されたこともあった。だが、実際に当たれば、選手生命を左右しかなない大ケガにもつながる。
「阪神は絶対に死球を出さないのか。古い話だが、1968年9月18日の試合でバッキーが王貞治に対し、1打席目に死球。その後の打席では2球連続で頭付近にビーンボールを投げて、乱闘事件に発展した。さらに、交代した権藤正利が王の後頭部に当て、王は病院に運ばれている。さすがに権藤の死球はわざとじゃないでしょうが」(前出・球界OB)
死球禍は後味が悪い。それを18年ぶりの「アレ」に持ち込んではいけないのだ。
(阿部勝彦)