78年の史上初の最下位とオフの田淵幸一放出。チーム一新のためのトレードとはいえ、彼を深夜に呼び出す無礼はいかがなものか。同年には江川事件も。
80年、ルーキー岡田の起用問題が勃発、ドン・ブレイザー監督は途中退団し、中西太が任に就いた。
81年、ラインバックが阪神を去る。8月26日には、
「ベンチがアホやから」
江本孟紀が吼え、シーズン中に引退してしまう。
小津正次郎球団社長が掲げた球団改革は進まず、優勝は遠い。タニマチの暗躍、派閥抗争が噂され、猛虎はいつしか「ダメ虎」と呼ばれるようになっていた。
「阪神は大阪の恥や!」
84年4月5日発売のスポーツ誌「Number」に鮮烈な見出しが躍った。
これのネタ元は私が同誌に寄稿した取材記事。「大阪のトラキチ25人アンケート」の中で発せられた女児の強烈なひと言であると同時に、24歳を目前にした私の憤懣の発露でもあった。
私やあの子だけでなく、大阪の心あるファンはこぞって虎に失望していた。それでも、阪神を溺愛している。このジレンマを、どうして球団や選手は汲み取れないのか。私は呻く。
「阪神、応援するだけ損なんとちゃう?」
アカンアカン。私は首を振る。ここまで応援してきたのに。でも阪神半疑のモヤモヤは晴れない。甲子園外野席のガラの悪い応援にも、いい加減イヤ気が差してきた。こういうのを当世では「蛙化現象」「同担拒否」というらしい。
記事が出た年、私は東京に転勤した。大阪を離れたことで阪神との向き合い方がリセットされた。
あれからほぼ40年、日常生活にタイガースの影がチラつくことはない。知人はもとより編集部や飲み屋にジム、書店、アパレルショップ‥‥立ち回り先に虎党はいない。そもそも、私から阪神の話題を持ち出しはしない。
こちらにいると阪神を持て囃すというか、弄ぶメディアはないから気が楽だ。戦況と岡田監督のコメントはスマホでチェック、勝利を反芻するなら動画サイト。ファン掲示板もチラリ。とはいえ、ネット系は深入りすると気が滅入るので用心している。
大阪はマスコミ総出、街ぐるみで大騒ぎだろう。マジックが減るほどに戎橋の欄干によじ登り、道頓堀川へ飛び込む準備するイチビリの数が増えるはず。
だが、そんなことも他人事に感じる。平和なものだ。「岡田阪神は大阪の誉ほまれ!」 優勝の瞬間には、ひとり静かにうまい日本酒の盃を傾けよう。
増田晶文(ますだまさふみ・作家):昭和35(1960)年大阪生まれ。最新刊に時代小説「楠木正成 河内熱風録」。2025年のNHK大河ドラマの主人公を描く「稀代の本屋 蔦屋重三郎」(ともに草思社)も好評。
*資料・文献は最終回に掲載します