猛暑のおかげで嬉しい「異変」が起きている。出荷の最盛期を迎えている「シャインマスカット」が、1パック1000円以下で販売されているのだ。例年の相場の半額程度だ。
「シャインマスカット」は高級ブドウ品種「マスカット・オブ・アレキサンドリア」の改良種と、日本国内で品種改良されたブドウをかけ合わせた、広島生まれの新種。農水省所管の農業・食品産業技術総合研究機構の登録名は「ぶどう農林21号」という。
シャインマスカットの原種「マスカット・オブ・アレキサンドリア」は、古代エジプトでクレオパトラも食していた北アフリカ原産の品種で、商品名もエジプトの都市アレキサンドリアに因んでいる。高級果物店や直販サイトで「1房4000円~1万円」で販売されており、古代エジプトでは貴族にしか食べることが認められなかった。平民や奴隷が1粒でも食べれば、拷問の末に死罪になったという。庶民でも食べられるよう、品種改良してくれた日本の生産者に感謝だ。
ネットニュースサイト「ABEMA TIMES」では9月16日、東京の下町たる墨田区のスーパーで、シャインマスカットが「1房398円」で販売されていると紹介された。この記事がYahoo!のトップニュースで取り上げられると、過日の3連休、街のスーパーはシャインマスカットを探す庶民で溢れる「ぶどう狩り」状態に。「格安シャインマスカットはどこで買えるのか」「今、スーパーに来てるがシャインマスカットの値段、例年と変わりない」などと、シャインマスカットを探すコメントがネットに溢れ、「#シャインマスカット」はトレンドワードになった。
では、ネットをざわつかせた格安マスカットはどこで買えるのか。
穴場は都内の宇都宮線や高崎線、常磐線、東武線、京成線の沿線だ。かつて大きな竹籠を担いで、東北や北関東から在来線を乗り継いで、上野を中心に都内に「産地直送の農産物」「手作りのお餅や和菓子」の販売にやってきた行商のお姉さん、おばさんと言われる人たちがいた。これら沿線には今も行商の名残りや、独自の仕入れルートが残っている。アンテナショップとは別に、都内下町を中心に「東北や北関東、北信越の生産者直販店」があり、地元の生産者がトラックで「朝採り野菜」を運んでくる。行商の時代と違って、女性店員は「手ぶら」で都内の店舗に出勤、運ばれた農産物を販売して家路につく。
そんな直販店では、数粒が痛んでしまったシャインマスカットが、400円以下で販売されている。あるいはJR東日本、JR貨物で運ばれた農産物を取り扱うJR東日本駅構内の「直売店」もある。
私が「600円のシャインマスカット」を買ったのも、JR東日本の催事だった。所用を済ませて1時間後に駅構内に戻ってくると、「シャインマスカット」は売り切れていた。
駅前にトラックをつけ、果物を販売する「移動販売」は真面目に商いをしている人もいる一方、盗品を販売しているかどうかの区別がつかない。JRやJAが駅構内で協賛している催事だと、買う方も安心だ。
原種がアフリカ原産で暑さに強く、生育が早いのに加え、福島第一原発の「処理水」をめぐって中国が日本の農産物、水産物の不買運動を続ける政治的事情もあって、シャインマスカットが値崩れしているという。
ワンコイン+αで美味しいシャインマスカットを食べられ、生産者の窮状の助けにもなるなら、まさに「ウイン・ウイン」。古代エジプトでなく令和の日本に生まれた喜びと共に、毎日でもシャインマスカットの甘さを噛みしめたい。
(那須優子)