10月27日、橋下徹大阪市長(45)が掲げる看板政策「大阪都構想」の協定書議案が、府市両議会の本会議で否決された。大阪市を廃止して5つの特別区に再編。府と市の二重行政のムダを省き、成長戦略やインフラ整備など大阪の再生を図った「設計図」は、風前のともし火となっている。
「やっつけ仕事で不備だらけ」「突貫工事の不良品」。
本会議で野党から批判の罵声を浴びせられると、橋下氏は眉間にシワを寄せて天井を見上げた。
「欠陥」の烙印を押された大阪都構想案の中身は、何が問題だったのか。都構想を巡って、かつて「朝まで生テレビ!」で橋下氏と激論を交わした日本共産党の山下芳生参院議員が説明する。
「維新は、かつて府と市の二重行政をなくして毎年4000億円を生み出すと宣伝していました。しかし、大阪市を廃止して特別区を作っても財源が出ないうえに、最初の5年間で1071億円の収支不足が生じる試算が出るなど、デタラメばかりだったのです」
都構想反対の急先鋒として知られる帝塚山学院大学の薬師院仁志教授も「否決は当然の結果」だったと意見をそろえる。
「私が疑問だったのは、都構想で導入される『一部事務組合』です。住民に身近な行政サービスを『特別区』で運営するとしていたのに、国民健康保険や水道事業など、100を超える事務数が『特別区』独自で運営できないため、その全てを『一部事務組合』(という実態のハッキリしない団体)で担うというのです。そうなると、混乱して今までより住民への対応が遅れることが予想される。都構想でわざわざ不便にする意味がわかりません」
否決された橋下氏は、
「非常に残念だ。大きな問題は住民が決めるべき。議会で葬り去っていいのか」
と、市役所で記者団に怒りをブチまけた。
17年4月と定めている都への移行を実現するには、府市議会で承認後に、住民投票で過半数の賛成が必要となる。ジャーナリスト・大谷昭宏氏が語る。
「両議会とも維新は過半数割れしているので、議案を再提出しても結果は同じ。国だって都構想なんてやる気がなく、実現しないと思って法整備もしていません。否決されたわけですから、都構想自体が消え去ったと言っていいでしょう」
それでも橋下氏は「設計図を書かせてほしい」と、今年3月、出直し選挙にまで打って出ただけに、そう簡単に諦めるわけがない。
本来なら議会で決定すべきことを、市長権限で議決を得ずに処理する「専決処分」という「秘策」まで持ち出す悪あがきを見せたのだ。山下氏は憤りを隠さない。
「議会を無視したのも同然。専決処分は地方自治法上、議会が開けない時、緊急時、議会が議決しない時など、きわめて厳しい条件で限られています。今回はどれにも当てはまっていません。災害が突発したわけでもないし、議会で議決されました。これは法律だけではなく、地方自治と民主主義のルールを蹂躙するものです」
それでも専決処分に踏み切れば、来年4月の統一地方選(府議選、市議選)と同じ日に合わせて、住民投票が行われる可能性が浮上してくる。
「『民意』を味方にして都構想を実現させたいのでしょうが、強引な姿勢に市民が納得できるのか。今の橋下氏は、ヤダヤダと叫んで誰かが振り向いてくれるのを待っている、まるで幼稚園児です」(大谷氏)
それだけ追い込まれているのも事実のようだ。