大阪市を廃止し、特別区を設置する「大阪都構想」。しかし西成区の編入先を巡って住民が紛糾しているという。問題となったのは、路上生活者の数が日本一の「あいりん地区」だ。
「大阪都になれば、ここは新中央区」
橋下徹大阪市長(45)は5日、西成区での講演で同区消滅をこう宣言した。
5月17日の住民投票でいよいよ民意を問われる大阪都構想。その前哨戦とうたわれた先日の統一地方選で、橋下氏率いる大阪維新の会は市議会、府議会ともに第一党を維持した。
しかし、投票を終えた有権者に対する朝日新聞社の出口調査では大阪都構想賛成48%に対して、反対は47%と拮抗。住民投票は、まさに大阪を二分する戦いが予想されている。
そんな中、都構想のアキレス腱になりかねないのが西成区の存在だ。同区には路上生活者が日本一多い「あいりん地区」があり、かの有名な飛田新地もこの地にある。現在の区割り案では、大阪市は5つの特別区に再編される。
西成区は、中央区、天王寺区、西区、浪速区とともに新・中央区に決まっている。この編入案を巡って住民の間では、怒号が飛び交ったという。大阪維新の会の府議がこう説明する。
「二重行政は反対、大阪都構想も賛成。でも、西成区とは『一緒になりたくない』という声は実際に多かった。あいりん地区イコール西成区のイメージが定着しているため、隣接する区民たちが拒否反応を示したのです。特に高級住宅街がある阿倍野区民の抵抗感はすさまじかった」
その結果、阿倍野区選出の現役府議は落選。市議も4人区の4番目でギリギリ当選となった。特に中央区で維新への逆風が吹いていたと、前出・府議は言う。
「財政で豊かなのが北区と中央区。北区の住民は都構想賛成が多数を占め、一方の中央区は西成区と一緒になるので相いれないという意見をいただく。一方的と思えるほど悪いイメージがあるようです。選挙でも大苦戦しました」
中央区に会社を設立、住居は別という人が多いため、選挙では都構想への賛否が「数字で見えなかった」(在阪の新聞記者)とも言われている。一方、西成区の住民は「都構想に賛成」(商店街店主)という声が多く、反対の立場は同区に会社を設ける経営者たち。西成区の建築会社社長はこう明かしてくれた。
「例えば下水工事で穴を掘る。仮復旧は別の会社がやって、完全復旧までは別の会社がやって、というように大阪市と府で振り分けができとった。都構想になれば都の一括発注になって大企業が参入してくるやろ。西成区には建築会社が多いから都構想には反対のイメージがあるんやと思うで」
この社長は「経営者として都構想は反対、住民としては賛成」とも。環境改善は自身の家族にとってもプラスだからだ。
「今の時代、どこの建築業者も自前で宿を作って、飯を食わせて、良い人材を住まわせとる。基本的に人手に困ることはほとんどないんや。手配師に頼んで西成で日雇い労働者を集めるのはよほど大きな工事の場合のみ。西成の労働者も年齢が上がって、重いものはよう持たんし、現場では使いものにならん。仕事をする気もないんやから、現場に呼んでもサボってばっかりや」
都構想実現で日雇い労働者が一掃されたとしても、地元建築業者の痛手にはならない。手配師が労働者を集めてバスに詰め込む光景は、西成でもほとんど見られないという。しかし「あいりん地区」の貧困ビジネスに携わる裏稼業主たちにとっては死活問題だ。匿名を条件にその一人が語る。
「西成には昔から仕事がもらわれへんかった時に支払われる『印紙』と呼ばれる金がある。通称『アブレ手当』。貧困ビジネスでは労働者を自分たちのボロ宿に住まわせて、そのアブレ手当を抜く。労働者からしても、宿も飯もあるので働かなくてもよく、週に2、3日働くだけ。仮に都構想で日雇い労働者を一掃すれば、このビジネスはできない。西成のような町は全国どこにもないし、食いっぱぐれたくないから、俺らも日雇い労働者も都構想には反対」
あいりん地区界隈を特区にして税制面の優遇措置などが検討されているが、はたして──。