口を開けば増税の話題ばかり。SNS上で定着した「増税メガネ」の愛称がよほど気に入らないのか、岸田文雄総理や自民党幹部、若手議員が仕切りに「減税」と言い始めた。騙されちゃいけない。今から3年前にも、同じことを言っていたのだから。
日本国民が新型コロナ禍に苦しんでいた2020年3月、自民党の若手議員は消費税減税を求める緊急声明を出していた。当時、安倍晋三政権が年内解散総選挙に踏み切るのではと、解散風が吹いていたのも、今の岸田政権と全く同じだ。
当選回数が少なく衆院解散総選挙で再選が怪しい若手議員ほど「景気の致命的な下降を食い止めるには、消費税の減税が欠かせない」とし、消費税をゼロにすると、れいわ新選組や日本共産党の選挙公約のような荒唐無稽な消費税改革を口走っていた。
青山繁晴参院議員は「『減税勢力』は自民党の衆参両院の国会議員100人以上に上る。安倍総理の背中を押していきたい」と述べたが、わずか1カ月後に、安倍内閣はコバエまみれの粗悪な「アベノマスク」を全国民に配布。予算543億円に加え、在庫余剰のアベノマスク保管料6億円と送料10億円以上の税金ムダ遣いをやってのけた。「増税メガネ」の増税分は、安倍政権のデタラメなコロナ対策で散財した国家予算のツケ払いでもある。
しかも3年後、我々には「ステルス大増税」が待ち受けている。
パート就労している主婦が年収103万円を超えると家族手当の廃止、106万円を超えると社会保険料の支払い義務が発生し、手取り年収は年間で約24万円以上(企業負担分を含めると約50万円の減収)に減ってしまう、いわゆる「103万円の壁」がある。その扶養控除そのものを2025年をメドに撤廃し、パート主婦を社会保険に強制加入させる議論が進行しているのだ。
岸田内閣は10月から103万円の壁を超えて働くパート主婦の手取りが減らないよう、勤務先に従業員1人あたり減収見込み額と同額の最大50万円の助成金を出す制度を導入したばかりだが、これはあくまで暫定措置。3年後には助成金のハシゴを外し、企業とパート主婦にガッツリと社会保険料を負担させるアメとムチだ。しかも健康保険料や年金といった社会保険料の値上げは、国会審議を通さずとも簡単にできる。
一方の野党にも、増税メガネ批判をする資格は一切ない。岸田内閣以上に最悪な「ステルス大増税」をやってのけ、日本の少子化を加速させたのは鳩山由紀夫内閣だからだ。
民主党は所得制限なしに中学生まで月額2万6000円を支給する「子ども手当」を公約に掲げていたものの、実際には「財源不足」を口実に半額の1万3000円の支給にとどまった。そして中学生以下の子育て世帯を対象とする「年少者扶養控除」を、2011年に廃止している。
そのせいで、中学生以下の子供がいる世帯の所得税は扶養控除分38万円(子供1人あたり)、個人住民税も33万円(子供1人あたり)と、合計約70万円(子供1人あたり)が事実上、大増税された。
1人っ子世帯でも毎月の納税額が6万円以上増え、支給されるのは1万3000円と、約5万円の大赤字。2人以上子供を育てる世帯にとっては、子供を産めば産むほど課税される税制に改悪され、鳩山内閣の大増税で第2子、第3子を諦めた夫婦は少なくない。2016年、自民党政権に戻った際に、この鳩山内閣の「子育て税」は廃止すると公約していたのに、いまだ議論もされてない。
もし岸田総理が「増税メガネ」を気にしているなら、7年間も棚上げになっている「年少者扶養控除」の復活で、汚名返上と支持率アップを図ってはどうか。
(那須優子/フィナンシャルプランナー)