現役時代に打倒・巨人に燃えた者としては、寂しくて仕方がない。9月のCS進出争いでも接戦をことごとく落として、2年連続の4位が確定した。昔はジャイアンツのユニホームを見ただけで飲み込まれるような威圧感があった。それが今では「巨人が相手なら勝てるんちゃうか」と、相手からナメられるようなチームとなってしまった。
ペナントレースは9月が勝負。その大事な9月に4度も0-1の敗戦を喫するなんて、普通ではありえない。お客さんに対して失礼やし、投手と野手の信頼関係はガタガタになってしまう。山口オーナーが来季まで契約の残る原監督の続投を明言せず、「真剣に考える必要がある」と異例の発言を行った。実際にあまりにも負け方がひどすぎるし、首脳陣、選手、フロントも含めて、徹底的に敗因を検証して出直した方がいい。
巨人がいかにちぐはぐな戦いをしてきたかが、9月を終えた時点での数字に表れている。ホームランの出やすい東京ドームを本拠地にしているとはいえ、チーム本塁打数164本は12球団で断トツ。打率2割5分2厘も両リーグでトップ。それなのにチーム得点は阪神、ヤクルト、DeNAに続くリーグ4位。ホームランでしか点が取れない、つながりを欠く打線だったということがわかる。ちなみに、チーム本塁打数が巨人の半分の阪神は12球団最多の得点数。打てない時はファウルで粘って四球を稼いだり、進塁打で走者を進めたりと、打線が一丸となっていた。
選手に自己犠牲の精神が芽生えないのは、スタメンが固定できずに立場や役割分担を明確にできなかったことにもある。固定できたのは4番の岡本だけ。40本の大台に乗せてキングが確実になっているが、打点はDeNAの牧に大きく離された。岡本の前でチャンスメイクする1~3番が機能しなかったということ。そら、いきなり試合で使って結果を残せというのは難しい。ベンチは我慢して、試合の中で選手を成長させていかなアカン。今年の阪神でいえば、8番ショートで固定された木浪。使い続けてもらうことで結果を残せるようになった。佐藤輝にしてもそう。調子が悪くても、使っていればそのうち打つようになった。
来年の課題も打線は上位打線で固定できる選手を育てられるかどうか。少し頭角を現しはじめた秋広を3番に据えて、1、2番で浅野、門脇という今年のルーキー2人。こういうフレッシュな顔ぶれを我慢して使えば、打てなくてもファンの不満は少ないはず。選手もチャンスをもらったら、目の色を変えて奪い取らなアカン。少し試合に出られるようになって安心していたら次の選手にチャンスを奪われる。一昨年、育成出身で外野のレギュラーをつかみかけた松原なんて、どこに消えてしまったんや。
プロの世界は3年続けて結果を残して一人前。去年、新人でストッパーを務めた大勢も危機感を持って取り組まないと、そこまでの選手で終わってしまう。野手も投手ももっとギラギラして自分の職場を確保しないとアカン。引退した松田を見習ってほしい。松田は全盛期を過ぎていて巨人では戦力にはなれなかったけど、必死に声を出したり、練習に取り組む姿は若い選手も勉強になったはず。ハングリー精神を持った熱男2世を自前で育てないと、強い巨人は戻ってこない。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。