「トンデモ埼玉」大暴走。子供のみの登下校、留守番、公園遊び、塾通い、子供を置いてのゴミ捨ても「親の虐待」だから禁止する――。
埼玉県の自民党議団が提出し、10月6日に埼玉県議会の委員会で可決された、驚くべき「虐待禁止条例」の一部改正案がそのわずか4日後に、アッサリと取り下げられた。
子供を持つ親の監視と通報義務まで盛り込んだ改正案を提出したのは、田村琢実・自民党県議団団長(さいたま市見沼区選出)。統一教会と密接な清和会の故・中山太郎元外務大臣の秘書を務め、活動報告書では今井絵理子参院議員とツーショット写真を撮り、日本会議地方議員連盟副幹事長を名乗っている。ゴリゴリの経歴だ。
2000万円もする高級公用車や、県議会受付嬢の夫が単身赴任中に子供を放置してのW不倫疑惑が週刊誌に取り上げられるなど、改正案を取り下げてもなお、騒ぎは収まらない。埼玉県内の社会福祉法人経営者がアキレながら言う。
「田村団長は県南部の社会福祉法人の理事を担っていますが、障害者の生活支援をしている施設のため、正月休みもお盆休みもなく、土日勤務もある。子供がいる職員であれば毎週末、恒常的に子供が留守番をすることになるし、正月や夏休み、冬休みも家に置いておくしかない。それでいて周辺施設に比べ、待遇は悪い。国が定める都道府県の令和5年度地域別最低賃金額(時給1028円)より28円安い、時給1000円からで施設職員を募集しています。福祉施設だけでなく、埼玉は学童保育や保育園の労働環境も悪い。親が勤務先の東京から帰ってくるから保育時間が長いのに、賃金は安い。それなら時給が高くて勤務時間が短い方がいいと、人材は都内に流れるんです。そのせいで、埼玉県は待機児童数が全国ワースト2位です」
最低賃金より28円安いというのが、実にセコい。24時間365日、交代勤務で月給は額面20万円以下。年2回の賞与は6万円。そんな薄給では夫婦共働きとてベビーシッターも雇えないし、まともな暮らしはできないだろう。
田村自民党県議団長も今井絵理子議員も、施設職員とその家族を人間扱いしていないから「障害者の福祉のために子供が犠牲になっている現実」には目を向けないのだろう。
ミュージシャンのGACKTは10月11日までに自身のXで〈翔んで埼玉に出演した繋がりから1つ言わせて貰うとすれば〉と前置きして、この問題に言及した。
〈埼玉の子ども放置条例の撤回は賢明な判断だと思う。この条例が可決されれば共働きやシングルマザーは働きにもいけなくなる。子供を預けるにも更にカネがかかる。そもそもこの案が出てくるのは日本で子育てをする「リアル」が国が持つ理想とかけ離れてる証拠。大切なのは子どもを親が見ないといけない仕組みじゃなく、子どもがどこにいても守られている安全な環境を国が作ること。そしてそのコミュニティを楽しみ、生き抜ける能力を親が教えてあげること。と、思うんだが〉
魔夜峰央が描いた「翔んで埼玉」とGACKTの方が、現実社会のトンデモ埼玉と自民党議員より、はるかにまともだった。
(那須優子)