この時期の野球界は悲喜こもごも。18年ぶりリーグ優勝を飾った阪神は3日に8選手の戦力外を通告。30歳の髙山俊と29歳の北條史也の名前もあった。2人とも脂の乗りきった年齢。美酒に酔った選手たちとはほんのちょっとの差やけど、どこかで歯車が狂ってしまった。
髙山は明治大からドラフト1位で入団し、2016年に当時の球団新人最多安打をマークして新人王を獲得。柔らかいバットコントロールは天才的で、首位打者を狙えるような逸材やった。日大三高では甲子園で優勝し、明大では六大学の通算最多安打を樹立。プロでもそのままエリートコースを歩むと思っていた。
今年の阪神は森下、大山、佐藤輝のクリーンアップ、1番の近本と、4人のドラフト1位の生え抜きがチームを引っ張った。大山の一つ先輩の髙山は彼らの兄貴分となるべき存在やった。ドラフト1位で入団して、まさか8年で退団するとは思っていなかったはず。
球界では昔から「2年目のジンクス」という言葉があるように、ブレイクした翌年に落とし穴が待っていることが多い。フォーム変更で失敗したり、テングになってしまう選手もいる。髙山は人気球団の阪神で1年目から活躍し、オフには引っ張りだこやったと思うし、ちょっとしたスイング改造で、バラバラになってしまった可能性もある。
今年就任した岡田監督も当初は髙山の復活を期待していた。実際、外野のレギュラーはセンターの近本しか固まっていなかったし、つけ入る隙はあった。ところが1度も1軍昇格機会はなし。岡田監督が思っているより、打撃の状態が悪かったんやろうな。開幕してからは、髙山の名前が出ることはなかった。守備と足でアピールできなかったのも痛い。打つだけの選手というイメージを覆せなかった。今年外野のレギュラー格のノイジーも森下も打率は2割4分以下。それでも守備がいいから、我慢して使ってもらえた面がある。
北條もガッツがあった選手で、レギュラーに定着してもおかしくなかった。金本監督時代には鳥谷に代わる正遊撃手として抜擢されたが、「ケガと友達」になったのがアカンかった。ダイビングキャッチが原因の左肩の脱臼はクセになった。ケガしたら元も子もない。ケガせずにいいプレーをするのが、本物のプロ。
「アウト一回、ケガ一生」。北條のようなもったいない選手が出ないよう、またこの言葉を使わなアカン。
それと、これもいつも言うように、プロは3年やって一人前。1年だけレギュラーを張っても、次の年にいい選手が入ってきたらポジションを奪われる。今年は正二塁手としてフルイニング出場した中野。彼が入団した21年の春のキャンプで「先輩たち見て、これなら抜けると思ったやろ?」と聞くとニコッと笑った。北條らに飛び抜けたモノがなかったということ。守備も打撃もそこそこでは、レギュラーの立場は安泰ではない。僕がプロに入った時は「すごいところに来てしまった」と圧倒された。新人であってもライバル。圧倒するぐらいの差を見せつけないとアカン。ケガしてチャンスを与えるのはもってのほか。
髙山も北條も現役を続行していくと聞く。チャンスがあれば死にもの狂いでやると思う。プロ野球選手にとって、完全燃焼でユニホームを脱げるほど幸せなことはない。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。