9月に閉幕したW杯でアジア最上位の成績を収め、五輪出場権を獲得したバスケットボール男子日本代表。自力出場は48年ぶりという快挙だが、世界の頂点はまだまだ遠いという。WEBメディア「バスケットボールキング」の入江美紀雄スーパーバイザーに聞いた。
渡邊雄太選手(29)、八村塁選手(25)=W杯は未出場=と2人の現役NBA選手がいる男子バスケ界は、人材的には黄金期と言っていいでしょう。ですが最新のFIBA(国際バスケットボール連盟)世界ランキングで、男子日本代表は26位(9月15日時点)。世界の舞台では、中堅よりも下位の後進国、と言って差し支えありません。東京五輪銀の女子日本代表は世界でも強豪と見なされていますが、よりフィジカル差が強さにつながる男子代表では、なかなか勝てませんでした。
パリ五輪出場は快挙と言っていいですが、その陰には、予選ラウンドで日本よりも組み合わせに恵まれたアジアのライバル・中国がコケてくれた幸運もありました。ですがそれでも、このW杯で男子代表が大きく成長した、ということも間違いないと思います。
転機は、21年にトム・ホーバスヘッドコーチが就任したこと。東京五輪で女子代表を銀メダルに導いた名将で、日本でプレーしたこともあり、勤勉で我慢強い日本人選手の特徴を熟知しています。
日本ではまだ重要視されていなかった、NBAトレンドの戦術「遠い2Pシュートを打たずに3Pシュートを狙う」を導入したのも彼です。女子代表で効果を発揮したこの戦術を男子でも採用。W杯での富永啓生選手(22)の活躍も、この戦術によるところが大きい。
他にも躍進の理由を語るなら、大会前に長期間の合宿を組めたことが挙げられます。通常、各国代表は、NBA所属選手の契約が絡み、選手が代表活動にかけられる日数に制限があるため、どこも短い期間で選手を集め国際大会に臨むケースがほとんどです。
しかし日本は今回、開幕の2カ月前から選手を集めチーム作りを開始することができました。自国開催で国の威信がかかっていたこともありますが、5月にシーズンが終了した国内Bリーグのスケジュール的にもちょうどよかった。他国を上回る練習量で、主要国際大会で初めてヨーロッパの国(フィンランド・20位)に18点差を逆転する劇的勝利もしています。
何より今まで男子代表は、世界レベルでの戦い方をどうすればいいか知らなかった。直近で19年の中国W杯、そして21年の東京五輪と国際試合の経験を踏み、今大会で五輪出場権獲得という結果を残せたという経験は、これからの代表の未来を考える上でも大きい。選手の代表へのモチベーションも今後、高まっていくでしょう。
加えて、日本が強くなれば、アメリカの大学で活躍するレベルの高い日系ハーフの選手が日本代表を選択したり、Bリーグに来る機会が増えることも考えられる。実際、NBAでプレー経験がある外国人選手が、給料面で劣っても、未払いがなく住環境もいいBリーグでプレーする例も増えました。国内リーグのレベルが上がれば日本人選手のレベルも底上げされる。
いわば今の日本男子バスケ界は、Jリーグ開幕当初のサッカー界に近い。サッカー日本代表は今や、W杯の常連になりましたが、バスケもそうなる可能性を秘めています。楽観的な言い方になりますが、今後は伸びしろしかないと思います。