10月15日に行われた選考レース「MGC(マラソングランドチャンピオンシップ)」において男女4人が来夏のパリ五輪代表に内定。まだ枠は残るが、メダル獲得の展望について、日本陸連ロードランニングコミッション・リーダーの瀬古利彦氏は辛辣に語るのだ。
男子1位の小山直城(ホンダ)、2位の赤𥔎𥔎𥔎(九電工)、女子1位の鈴木優花(第一生命)、2位の一山麻緒(資生堂)がそれぞれ出場権を獲得した。
前回大会21年の東京五輪マラソンの日本人選手最高位は、男子が大迫傑(ナイキ)の6位、女子は一山が8位に終わっている。
瀬古氏は日本マラソン界の現状をバッサリと斬る。
「今、男子の世界記録は2時間0分35秒、女子は2時間11分53秒。一方、日本記録はというと、男子が2時間4分56秒、女子は2時間19分12秒(いずれも23年10月20日時点)。女子に関しては、18年も日本記録が更新されていない。男女ともこのままでは世界と戦えません。もっと頑張ってほしい。さらなるレベルアップが必要です」
かつてマラソンは日本のお家芸とも呼ばれ、五輪でのメダル獲得が大いに期待できる種目の1つだったが、近年の世界大会では東アフリカのケニア・エチオピア勢が表彰台を席捲している。日本人選手は、なぜ勝てなくなったのだろうか? 瀬古氏が指摘する。
「一言で言うと、この約30年でマラソンがプロスポーツ化したということですね。世界中で高額賞金の大会がどんどん増えていき、マラソンがスポーツビジネスとして発展した。そのため、ケニアやエチオピアでは、国や欧米のスポーツメーカー、スポンサー企業が全面的にバックアップして最新鋭のトレーニング拠点を作り、科学的なアプローチのもと若い選手を育成しているんです。そもそもケニアやエチオピアの選手は、日本人よりも中長距離走に適した、身体的に有利な特徴も持ち合わせている。私が現役だった時代と比べたら、日本のマラソン界も格段にレベルは上がっていますが、厚底シューズの登場もあったりして、ケニア・エチオピア勢は日本人選手以上に、もっともっとタイムを伸ばしている。だって、男子のマラソン世界記録は、後半のハーフを59分45秒で走っているんですよ。ハーフマラソンの日本記録は60分ジャストなのに‥‥」
世界の男子マラソンを見渡すと、2時間切りも秒読み段階と言われている。この現状ではこの先、日本人選手が世界大会で表彰台に上がることはないのだろうか‥‥。瀬古氏が期待を込めて解説する。
「タイム的に見ると、非常に厳しいです。でも、勝負事だから何が起こるかわからない。先のMGCでも4位に入る粘りの走りを見せた川内優輝選手は、18年に世界6大マラソンの1つに数えられるボストンマラソンにおいて、優勝候補のケニア・エチオピア選手を抑えて日本人選手として当時31年ぶりの優勝を果たした。レース当日は強風、大雨、低温という最悪な気候条件だったため、次々に有力選手が脱落していったんですよ。
五輪ではケニアもエチオピアも、各国3人しか出場できないから、パリでも高温多湿などの悪コンディションになれば、蒸し暑さが苦手な東アフリカ勢を抑えて、メダルの可能性がないことはない。ただし天候頼みというのは釈然としないので、まず男子は2時間3分台、女子は2時間17分台を自力で出してほしい。そうすれば世界と戦うことができると思います」
日本マラソン界の道のりはまだまだ長いか。