2018年に日本でも上映され、大ヒットを記録したピクサー映画「リメンバー・ミー」。物語は年に一度の「死者の日」に、死者が暮らす国へ迷い込んだ少年と、死者の国で暮らす骸骨との不思議な絆を描いたファンタジー・アドベンチャーだ。だが実はメキシコでは今もなお、年に一度「死者の日」というものがあり、先祖を祀るために盛大に祝う風習が残っている。
メキシコの首都メキシコシティには、1428年頃から1521年の約93年にわたって栄えたとされる、アステカ帝国の遺跡がある。アステカ文明はメソアメリカ文明の最後に現れたとされ、その象徴たる「太陽の石」は太陽神殿にあった遺物として、メキシコ国立人類学博物館に展示されている。これを見たいがために毎年、各地から多くの観光客が訪れるという。
そんなメキシコシティにあるアステカ文明遺跡のひとつ「風の神エヘカトル」に捧げられた神殿で、頭蓋骨の形をした奇妙な遺物が発見されたのは、今から二十数年前のことだ。中南米史に詳しいジャーナリストが言う。
「遺物は手のひらサイズで、上部は穴のあいた筒状になっており、全体に骸骨の彫刻が施されていました。首が失われた骸骨が、それをしっかり握りしめていたというんですね。ただ、発見当時は単なる装飾品か玩具だと考えられていて、そのまま放置されていたのですが、数年後に機械工学専門で、アメリカ先住民音楽の研究者が調査すると、アステカ族に古くから伝わる『死のホイッスル(死の笛)』である可能性が高いとわかった。地元メディアでも大きな話題になったのです」
14世紀後半、メキシコ高原で文明を形成してきたアステカ族は独自の神話体系を持ち、それにまつわる儀礼を行うための道具を用いていた。そのひとつが、まるで人間の断末魔のような響きを発する、この「死の笛」かもしれないというのだ。このジャーナリストが続けて説明する。
「この笛の音色を実際に耳にした人の中には、恐ろしさのあまり卒倒したり、体調不良になるケースもありました。街角でこの音を聞けば、間違いなく女性の断末魔の瞬間だと確信して警察が来るだろうと、米ニューヨーク・ポスト紙が『世界で最も恐ろしいサウンド』と紹介しています。研究者によれば、アステカ族は神に生贄を捧げていたことから、その儀式の際にこのホイッスルを奏でていた。あるいはこのホイッスルが、死者を黄泉の国へといざなっていたのではないか、と。当時は部族間の戦いが絶えなかったこともあり、敵の戦意喪失を狙って、あえて身も凍るような音を流したのではないか、という説を唱える古代史家もいます」
いずれにせよ、この音が人間の精神状態に強い影響を及ぼすことは事実だ。まさかとは思うが、この音を携帯電話の着信音に…などと考える愚か者が現れないことを願うばかりで…。
(ジョン・ドゥ)