米カリフォルニア大学バークレー校の神経科学者たちが、イギリス出身の伝説のロックバンド「ピンク・フロイド」の曲を聴いた時に出てくる脳信号を人工知能に学習させ、信号に基づく音楽の再構成に成功した。その研究が「PLOS Biology」(2023年8月15日付)に掲載されると、世界の神経学者たちを驚愕させる事態になっている。
今回、バークレーの神経科学者チームが挑んだのは、脳の活動パターンと音の高さやハーモニーといった音楽的な要素との間にはどのような関係があるのか、というもの。実験では、てんかん治療のために脳に電極を埋め込んだ29人に、ピンク・フロイドの1970年代の名曲「アナザー・ブリック・イン・ザ・ウォール(Another Brick In The Wall Part 1)」を3分間聴いてもらい、脳の領域の電気的活動を記録。それを人工知能ソフトを使って再構築した。頭蓋内脳波記録をもとに曲を再構成した例はなく、今回の実験成功はまさに世界初の快挙だという。科学ジャーナリストが解説する。
「この実験は脳と音楽がテーマですが、さらに研究が進めば、例えば脳に障害を負って音楽を視聴できなくなった人が再び音楽を聴けるようになる可能性も出てくる。むろん、人間の脳と外部機器を繋げる『ブレイン・コンピューター・インターフェース(BCI)』分野でも、技術革新に大きく貢献することは間違いないでしょう。誰もが知っているピンク・フロイドのヒット曲を使った初の試みとなりましたが、はたして他の曲を選択していたらどうだったのか、興味深いところです」
ただ、このニュースを受けて「改めてピンク・フロイドの偉大さがわかった」「まさにこれはピンク・フロイドが起こした奇跡だ」といった声が続出しており、今後も彼らの曲が実験に用いられる可能性は高いかもしれない。バークレー校のロバート・ナイト教授は、
「この研究を通じて、脳の音楽処理に対する理解という大きな壁に、小さなレンガをひとつ積み上げた」
と述べている。
「それは壁にある単なるレンガにすぎない」と歌った曲だが、これは世界の神経科学における、とてつもなく大きなレンガとなったようである。
(ジョン・ドゥ)