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新日本プロレスVS全日本プロレス<仁義なき50年闘争史>「5万3800人動員!! プロレス初の東京ドーム」

 ソビエト連邦のオリンピックや世界選手権で実績を持つレスリングの猛者を共産圏初のプロレスラーにして、日本、アメリカのプロレスラーと対抗戦をさせるというアントニオ猪木の壮大なプランは89年4月24日、プロレス初進出となる東京ドームで「’89格闘衛星闘強導夢」と銘打って実現の運びとなった。

 当時、新日本プロレスの副社長だった坂口征二(現相談役)は「当時、ウチのビッグマッチは両国国技館だったけど、暴動もあったりして、後楽園が満員にならない時もあったよ。そんな中で猪木さんが〝東京ドームでやるぞ!〟って言い出して(苦笑)。あの時はソ連のアマレス選手がプロに転向っていう社会的話題もあったけど、やっぱり途方もないことだったよ」と、振り返って苦笑する。

 それまでのビッグマッチは1万人規模だったが、その5倍を動員しなければならないのである。

 メインは猪木と72年ミュンヘン五輪柔道93キロ級金メダリストのショータ・チョチョシビリのノーロープ円形リングを使った異種格闘技戦。米ソ対抗戦としてクラッシャー・バンバン・ビガロVSサルマン・ハシミコフ、日ソ対抗戦としてマサ斎藤VSバッハ・エブロエフが組まれた。

 大会を通しての目玉は日米ソ3国による闘強導夢杯争奪トーナメント&IWGPヘビー級王座決定戦。日本代表は藤波辰巳(現・辰爾)、長州力、海外修行中の蝶野正洋と橋本真也、アメリカ代表はビッグバン・ベイダー、バズ・ソイヤー、ソ連代表はビクトル・ザンギエフ、ウラジミール・ベルコビッチがエントリー。セミ前の獣神ライガー(現・獣神サンダー・ライガー)のデビュー戦も大きな話題になっていた。

 獣神ライガーは同年3月11日にテレビ朝日系ネット13局で放映がスタートした永井豪原作のアニメのヒーロー(90年1月27日まで毎週土曜日午後5時30分~6時に放映)。

 プロレスファンの永井が「ライガーのキャラクターをプロレスに登場させたい」と新日本にラブコールを送り、当時イギリスで修行中の船木優治(現・誠勝)に白羽の矢が立った。

 しかし船木はUWFへの移籍を表明して新日本を退団。代わりに船木と一緒にイギリスで修行していた山田恵一に声が掛かり、もともとマスクマン志向だった山田は二つ返事でOK。本人の希望で「山田恵一がライガーに変身する」と公表した上でマスクを被った。

 大会の演出は日米ソによるプロレス五輪。蝶野、ブラッド・レイガンズ、エブロエフがそれぞれに国旗を手にして入場した。開会宣言の後にはトーナメントで争われるIWGPヘビー級のベルトを藤波が返還。そして3カ国の国歌吹奏が行われ、場内のムードは早くも最高潮に達した。

 トーナメント1回戦はベイダーが蝶野を圧殺、藤波はソ連軍団のベルコビッチのスープレックスを食らいながらもバックドロップから三角絞めで快勝。ソイヤーとザンギエフの米ソ対決は、ザンギエフの鮮やかなジャーマン・ス―プレックスが決まった。

 長州VS橋本の日本人対決は「長州をぶっ潰すためだけに一時帰国した」と語っていた橋本がニールキック、DDTで大善戦。長州のバックドロップ、ラリアットをしのぎ、最後はサソリ固めを丸め込んで逆転勝利。「運が自分についてきた」と喜びの表情を見せた。

 IWGP王座を巡って前年から抗争中のベイダーと藤波の準決勝は勢いに乗るベイダーが圧殺勝利。

 ザンギエフと対戦した橋本はフロント・スープレックスを食いながらもレスリングにはないヘッドバット、ニールキックから、古典的プロレス技の足4の字固めで勝利して決勝にコマを進めた。

 決勝のベイダーVS橋本は、ベイダーがラリアット2連発で橋本をKOしてトーナメント優勝と同時に第4代IWGP王者に。 

 注目のライガーは、かつてタイガーマスクと死闘を繰り広げた小林邦昭にオリジナル技の獣神スープレックスを決めて、鮮烈デビューを果たした。

 セミのハシミコフVSビガロはハシミコフが強さを発揮。わずか2分26秒、170キロの巨体を水車落としで叩きつけて秒殺した。

 メインはまさかの幕切れに。チョチョシビリの腕ひしぎで左腕が使えなくなった猪木が裏投げ3連発でKOされ、異種格闘技戦で初黒星を喫したのである。

 翌日のスポーツ各紙は1面で「猪木完敗」を報じたが、興行的には大成功で5万3800人を動員して興行収益は3億円強。

 猪木は1カ月後の5月25日、大阪城ホールに1万2350人(満員)を集めて、裏十字固めでチョチョシビリに雪辱を果たす。

 新日本は、初のド―ム成功を機に、東京ドーム興行を定着させて収益を上げることで、それまでの巡業中心の年間250前後の試合を半分に減らした都市中心型の新たな興行体制の確立を目指すようになる。

小佐野景浩(おさの・かげひろ)元「週刊ゴング編集長」として数多くの団体・選手を取材・執筆。テレビなどコメンテーターとしても活躍。著書に「プロレス秘史」(徳間書店)がある。

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