11月10日から公開される「正欲」(監督・岸善幸)は朝井リョウの同名小説を映画化した見応え十分の話題作。決して理解されない性癖や価値観を持っている人たちが、自分や世の中に対してやるせない思いを抱きながらも、それに向き合って生きていく姿がリアルに描かれている。主演した稲垣吾郎と新垣結衣にとっては代表作になるだろう。
YouTubeにハマって不登校の息子が、世間から断絶されることを恐れる検事・寺井啓喜(稲垣)。「水フェチ」で周りとの関係を断っている寝具販売員の桐生夏月(新垣)。夏月の中学の同級生で彼女と秘密を共有することになる食品会社社員の佐々木佳道(磯村勇斗)。心を閉ざしてアルバイトに勤しむイケメン大学生の諸橋大也(佐藤寛太)。大也に思いを伝えることができない同じ学校に通う神戸八重子(東野絢香)。そんな無関係に見えるそれぞれの人生が、あるショッキングな事件をきっかけに交差し始める。
その事件はいま騒がれているジャニーズの件を思わせるものだが、それは見てのお楽しみ。ここでは新垣の演技について触れておこう。
新垣は冒頭から性的欲求を満たそうとするシーンを演じるので、清純派のイメージを抱いている人にとってはビックリするかもしれない。さらに、佐々木が女性とイチャイチャしていると知るや、彼の家にモノを投げつけ窓ガラスを割ったりもする。心の内側には狂気めいたものを秘めているのだ。その後、水フェチ仲間ということで彼と解け合い、一緒に暮らすことになるのだが……。
とまあ、新垣にしてはこれまでになく力のこもった演技で、女優として一皮むけた印象。今後、大人の女優として活躍していくこと必至だろう。
見終わっていい気持ちになれる作品ではないが、稲垣と新垣のファンならば満足すること請け合い。なお、同作はこの先だって開催された第36回東京国際映画祭で最優秀監督賞&観客賞をW受賞している。
(映画ライター・若月祐二)