クマによる人的被害が、日本全国の有名観光地にまで拡大している。
11月4日には栃木県那須町を観光で訪れていた日本人女性が、背後からツキノワグマに襲われて両腕などを負傷。これに先立つ9月27日にも、長野県にある世界的に有名な観光地・上高地を訪れていた韓国人男性が、岳沢湿原に近い遊歩道でツキノワグマに襲われ、頭部や顔面、腕などに重傷を負っている。
そこで思い出されるのが、長野県と岐阜県の県境に位置する乗鞍岳への登山口・畳平バスターミナルで発生した、2009年9月の惨劇である。クマの生態に詳しい動物学者も、次のように警鐘を鳴らしている。
「乗鞍の惨劇では登山客のほか、バスターミナルにいた観光客やバスの運転手、環境パトロール員らが、パニック状態に陥ったツキノワグマに次々と襲われ、公式発表だけでも10人(重傷3人、軽症7人)が負傷したとされています。本州以南でツキノワグマによる人的被害が史上最悪の頻度で報告されている今、同様の惨劇が再び発生する懸念は日増しに高まっていると考えておかなければなりません。とりわけ東北や北陸、中部などの観光地では、厳重な警戒が必要です。もはや観光地といえども、安全ではないのです」
さらに憂慮されるのが、ツキノワグマとは比べものにならないほど獰猛なヒグマが棲息する、北海道での被害だ。事実、11月2日には、北海道南部にある大千軒岳の6合目付近の登山道で、行方不明になっていた登山者の遺体が発見されている。動物学者が続ける。
「死因はヒグマに襲われたことによる出血性ショックとみられ、DNA鑑定をしなければ身元の確認ができないほど、食害による遺体の損傷は激しかったとされています。世界自然遺産に登録されている知床をはじめ、北海道の観光地では、道路に出てきたヒグマの親子などを車から降りて写真撮影する観光客があとを絶ちません。ヒグマに限らず、子グマを連れた母グマは最も危険です。悲惨なヒグマ被害が発生するのも時間の問題でしょう」
少なくともクマが冬眠に入る12月末までは、最大限の注意を怠ってはならない。
(石森巌)