1999年3月に勃発した、あの「ミッチーVSサッチー騒動」を記憶している人は多いと思う。浅香光代との壮絶バトルをきっかけに、経歴詐称、脱税疑惑、そして2002年5月の懲役2年執行猶予4年判決等々、芸能マスコミに話題を提供し続けてくれたのが、野村克也元監督の妻、野村沙知代氏だった。
騒動の詳しいいきさつは今回、置いといて、ここでは報道陣が口あんぐりで「これ、どうやって記事にすりゃいいんだよ」と野村元監督さながらにボヤキまくった「整形手術決意」記者会見を取り上げる。
時は2005年8月8日。東京・赤坂のホテルニューオータニでのことだ。マスコミ各社に送られてきたFAXには「サッチーと野村監督(当時、シダックス監督)が重大発表」という旨が明記されていた。となれば「監督辞任」か、はたまた「離婚」のどちらかである可能性も出てくる。
そんなわけで、集まった報道陣は70人。スチール二十数人、テレビカメラ10台以上がズラリと並ぶ仰々しさだ。そこへ登場したのが、ピンクのジャケットに身を包み、上機嫌で登場したサッチー。その横には、不機嫌そうな監督が。そして隣にはなぜか、高須クリニックの高須克弥院長の姿がある。
高須院長が口火を切って話し始めた。
「今度、沙知代さんを美容整形することになりました。若返りを図ります」
つまりこの会見の主旨は、御年73のサッチーが近々に美容整形手術にチャレンジしますよ、ということらしいのだが…。
とはいえ、筆者を含め、なかなか事態が飲み込めないのが報道陣だ。が、そんな空気などいっさい意に介さない表情で、サッチーはこう続けたのである。
「決意なんて大げさなもんじゃないわよ。美しいのは無理だから、綺麗になりたいのよ。たるんでいるところを引っ張るだけ。20歳、若返りたい。費用は200万円程度。顔が成功したら、次はカラダね」
何も聞かされていなったという野村監督は戸惑った様子で、苦笑い。
「こういうのって発表するもんなんかな。てっきり離婚会見だと思った」
サッチーも会見を開くことについて「相談なんかしていないわよ」とピシャリ。
困ったのが記者たちだ。このネタだけで、さすがに記事にはできない。そこで付け焼刃的な質問も飛び出した。
「(アメリカで整形した)ある女優さんが『(日本に)帰ったら言わないでね』っていうんだけど、どうして隠すのかしら。おかしいわよ」
サッチーがいつもの毒舌を吐く。すると、すかさず監督が、
「外見ばっかり綺麗にせず、心もきれいにしなきゃ」
と締めて、会見はお開きに。監督の機転を利かせた見事な采配のおかげで、最後は記者たちも顔を見合わせて「これでなんとか記事にできるんじゃないか」。ホッと胸を撫で下ろしたのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。