かつて情報番組「ブロードキャスター」(TBS系)で人気だったコーナー「お父さんのためのワイドショー講座」。毎週放送されたワイドショーでの放送時間をランキングしたこの企画で、長期にわたり上位をキープしていたのが、「ミッチー」浅香光代と「サッチー」野村沙知代との熟年女性バトルだった。
コトの起こりは、99年3月31日。浅香が5年間出演したTBSラジオ「大沢悠里のゆうゆうワイド」卒業の際、「最終回だから、言いたいことを言わせてちょうだい」と言い出したことだった。
当時、衆議院選に担ぎ出される人気者だったサッチーに対し「いったい何様のつもり!?」「何がコロンビア大学だ。あんたなんか、寝ころんビアでしょ」と猛口撃をブチかましたのである。同時に行われた記者会見でも、舞台稽古に遅刻しても一切謝らない、スタッフを怒鳴り散らす、さらには浅香が貸した指輪を勝手に私物化したり、紹介した美容整形医に料金を払わない等、サッチーの悪行三昧を洗いざらい暴露した。
「あの人のわがままは、もう許せない。電話で態度を注意したら『私とあなたとは人種が違うのよ』ですって。何が教育論よ。あんたが人に意見する立場か」
怒りをブチまけられたサッチーをさっそく、自宅前で直撃するも、
「うるさいわね!一昨日おいで!」
憮然とした表情で、邸宅の中へ。
ところがそのまま沈黙を守るかと思いきや、4月6日の大阪での講演会で、反撃にうって出たのだ。曰く「金持ちはケンカしないものなの」「主人からは、付き合う相手を選べと言われた」。上から目線での物言いである。
5月14日に岡山市内で開催された講演会でも「学校のイジメと同じ。私は集団リンチにあっている。結局は私に対する妬みとひがみなんです」「儲けさせてやったのに、何言ってんだ」と言ってのけ、火に油を注ぐことに。
当然、浅香のボルテージも上がるばかりだ。6月29日の会見では「あの人の言っていることは99%ウソ」と批判したかと思えば、7月12日には「サッチーはゴキブリみたい。叩いても死んだフリして起き上がってくる」
コトここに至って、バトルは収束不能の状態に陥ったのである。
ついには99年7月、浅香らが野村の「米コロンビア大学卒業」が経歴詐称だとして、刑事告訴する騒ぎに発展。01年12月、浅香側が勝利し、さらに、サッチーが脱税容疑で逮捕されたことで、夫の野村克也氏も阪神監督辞任に追い込まれた。
だが、サッチーは凹まなかった。結局、翌02年には名誉棄損で浅香を訴え、浅香側が110万円を支払うことで決着。3年にも及ぶ大バトルに、ついに終止符が打たれたのである。
サッチーは00年4月に発売した自著「日本一勇気ある嫁」で、こう綴っている。
〈今度生まれ変わっても野村沙知代で生きたい「I am サッチー、私は強い」〉
同世代を生きた人々の記憶に、強烈な印象を残した女傑だった。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。