スポーツ

武藤敬司×NOSAWA論外「プロレスLOVE」大放談(3)「一緒は嫌だよ。ずらせよ」

武藤 まあ、プロレスラーのNOSAWAは大したことねぇよ(笑)。

NOSAWA それは、わかってますよ(苦笑)。

武藤 大したことないけど、メキシコに行った時、トップでやってたから「頑張ってんだな」なんて思った。ただ、日本のプロレスとは違ったりするから使えるかどうかわからないという中で、途中から鈴木みのると仲良くなってスパーリングとかやってたもんな。

NOSAWA 正直言うと試合よりも試合前の鈴木さんとのスパーリングの方がきつかったんですけど、楽しかったんですよね、僕にはないものだったから。

武藤 当時の全日本ではカズとか石沢(常光=ケンドー・カシン)がベーシックな練習をさせていたんだよ。試合で使うかどうかはわからないけど、タックルだとか足や腕の取り方だとか、そういう基本がないと何もできないからな。

NOSAWA メキシコのルチャ・リブレの腕の取り方とかとちょっと違うし、僕は日本でプロレスをまったく教わったことがないんです。だから新鮮で楽しかった。全日本の時はホント自由にやらせてもらいましたね、僕らは。

武藤 基本があるから応用ができるわけであって。応用って失敗することもあるんだよ。だけど基本に戻ればいいだけじゃん、失敗しても。

NOSAWA あれダメ、これダメはなくて自由にやらせてもらいましたけど、俺とMAZADAは初来日の外国人とかデビュー戦とかの相手をさせられて、いい〝リトマス紙〟だったんじゃないですかね。それでカズさんに「どうだった?」って聞かれて「ちょっと荒いですかね」って。それもいい経験でした。全日本、W-1があって、まさかノアで武藤さんと一緒に引退するとは思わなかったです。最初は「一緒は嫌だよ。お前、ずらせよ」って言われましたけど(笑)。

武藤 それは条件反射で言ったのかもしれないよ(笑)。やっぱり東京ドームという空間を埋めるには、いろんな材料がないと。NOSAWAの引退もあれば‥‥少なからず野沢のファンもいるわけだからさ。

NOSAWA 少なからずですか(苦笑)?

武藤 そういうのを集めていかないと、ああいう空間を埋めるのは大変じゃん。

NOSAWA 僕はうれしかったですけどね。理由は何であれ、武藤さんと一緒に引退できたっていうのは、いちばん幸せですよ。

武藤 俺も今、いちばん幸せだよ。あんな引退試合をできてさ。縁というか、サイバーエージェントがプロレス界に乗ってくれて、タイミングがすべてよかったよな。幸せに引退できたけど「何で10カウントゴングのセレモニーをやらなかったんですか?」って、よく聞かれるんだよ。俺、今まで遺影を持った追悼の10カウントを何度も経験しているから嫌だったんだよ。お前もやってないだろ?

NOSAWA 海外で10カウントは亡くなった時にしかやらないんですよ。海外での引退は曲が鳴って、コールされて終わりです。僕はそもそも武藤さんのオマケで引退したんで、セレモニーはやらないつもりでしたし、NOSAWA論外というキャラクターがあるから「もしかしたら復帰するんじゃないか?」って思わせておいた方が面白いなと思って。今はもう時間が普通に流れているだけで、すごく幸せです。辞めてよかったなって。だからこの先、選手たちが「辞めてよかったな」って言えるようなプロレス界になっていってもらいたいですよね。

武藤 俺もお前も生き残っているから、振り返って幸せだったって言えるんだよ。全日本の時だってヤバかった時がいっぱいあったんだよ。あそこで死んでたらダメだった。生き残って振り返ることができるから幸せって言えるけど、ギリギリだったんだよ、全日本もW-1も。これが苦労もしないで普通に三十数年生きていたら、そんなに幸せ感もないかもしれない。ただ体が痛いだけで。

NOSAWA 僕は武藤さんの全日本に来て幸せでしたよ。それがなかったら海外で当たっているか、とっくに辞めていたかもしれないですね。たぶん、日本に帰らずに海外で暮らしていたと思います。今日は僕のためにわざわざ来ていただいて、この後、ご飯をご馳走させてください。

武藤 お前に奢ってもらうのかよ? じゃあ野沢先生にはガッポリ印税が入るだろうから、今日はゴチになろうかな(笑)。

〈構成・小佐野景浩〉

武藤敬司:62年12月23日生。84年4月、新日本プロレスに入門。蝶野正洋、故・橋本真也と「闘魂三銃士」と称され、トップレスラーへ。02年2月に全日本プロレスへと移籍し代表取締役社長に就任、プロレス大賞MVPに輝いた。13年に「W–1」旗揚げ。18年3月末に両膝を人工関節に施術。21年2月にプロレスリング・ノアへ電撃入団。23年2月21日、東京ドームで引退。現在はタレントとしても活躍する。

NOSAWA論外:76年12月17日生。95年の屋台村プロレス入門を皮切りに、同年12月にPWCで正式デビュー。98年からメキシコに渡って活動。メキシコと日本、アメリカを行き来し、プエルトリコ、グアテマラ、オーストラリアにイタリア、イギリスと世界を股にかけて戦う。日本国内だけでも、全日本、新日本、ノアをはじめ、多くの主要団体のリングに分け隔てなく上がった。23年2月21日、東京ドームで引退。現在は文化人。

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