アメリカで今、「フェンタニル」なる合成麻薬の蔓延が深刻化している。
フェンタニルはオピオイド(麻薬性鎮痛剤)の一種で、効き目はヘロインの50倍、モルヒネの100倍とされている。また、安価で中毒性が高く、わずか2ミリグラムで致死量に達してしまう点も、フェンタニルが持つ著しい特徴だ。
CDC(アメリカ疾病対策センター)の調べによれば、フェンタニルは近年、アメリカの若者を中心に乱用が拡大し、過剰摂取による2020年の死亡者数(14歳~18歳)は2015年の約17倍へと急増。翌2021年には全米、全世代での死亡者数が7万人を超えたという。
そんな中、米ホワイトハウス内では、中国共産党指導部に君臨する習近平国家主席への批判の声が、猛然と噴出し始めている。いったいどういうことなのか。世界の麻薬取引に詳しい国際諜報アナリストが指摘する。
「フェンタニルはアメリカ国内のスラング(俗語)で『チャイナガール』と呼ばれている。中国国内にある化学メーカーが、フェンタニルの原料を製造しているからです。フェンタニルのアメリカ内への主な流入ルートは2つあり、ひとつはメキシコの麻薬カルテルが中国から輸入した原料を錠剤に加工して、アメリカに密輸するルート。もうひとつは中国からアメリカに輸入された原料が錠剤に加工されて密売される、ダイレクトルートです」
そこで思い出されるのが、1840年に清朝(当時の中国王朝)とイギリスの間で勃発した「アヘン戦争」だ。当時、清朝はイギリスの商社を通じて流入するアヘンの中毒蔓延によって、弱体化の道を余儀なくされた。国際諜報アナリストが続ける。
「中国の化学メーカー発とされる今回のフェンタニル汚染は、いわば中国がアメリカに仕掛けた『新アヘン戦争』です。すでにアメリカの議会筋からは『アメリカは中国とのアヘン戦争に敗北しつつある』との悲痛な声が上がっている。化学メーカーによる原料の輸出を黙認している習近平が、新アヘン戦争の首謀者であることは言うまでもありません」
アメリカのバイデン大統領は二度にわたって、習近平国家主席を「独裁者」と公言、非難してきた。その大統領の脳裏に、フェンタニル汚染でアメリカ社会を弱体化しようとする、習近平の「麻薬王」としてのウラの顔がチラついていたことは、想像に難くない。
(石森巌)