自民党の政治資金パーティー裏金疑惑に続いて、内閣官房報償費(官房機密費)疑惑が浮上した。麻生太郎政権で官房長官だった河村建夫元衆院議員が朝日新聞をはじめメディアの取材に対し、選挙向けに支出していたなどと、その裏側を明らかにしたのだ。
政府は官房機密費について「国の事務または事業を円滑かつ効果的に遂行するため」と説明しているが、これまで具体的な使い道を明らかにしてこなかった。それが脚光を浴びるきっかけとなったのは、石川県の馳浩知事が講演で国際オリンピック委員会(IOC)委員に対し「官房機密費を使ってアルバムを1冊20万円で作成して渡した」と暴露したためだ。馳氏は批判を受けて発言を撤回したが、今度は2008年から1年間、官房長官を務めた河村氏が口を開いた。
河村氏が朝日新聞の取材に語ったところによると、機密費は月1億円ほど支出。選挙の最中、「官房長官として(応援に)呼ばれた際や、(自民党)総裁が(応援に)行かないといけないケース」に使ったという。具体的な支出先や金額は明らかにしなかったが、「野党対策とかの必要経費として(自民党の)国会対策委員会に渡した」とも語っている。
河村氏はなぜ、自民党をめぐる「政治とカネ」問題が猛批判を受けている時に、「ブラックボックス」ともいえる機密費問題に触れたのか。自民党の閣僚経験者は、
「維新から出馬する息子の選挙を支援するため。選挙区調整で敗れた怨念があるのでしょう」
河村氏の秘書だった長男・建一氏は2021年の衆院選で、地元の山口県から出馬しようとした。ところが10増10減に伴う山口3区の議席減により、参院から転出した林芳正前外相に弾き出されるように、比例ブロックからの出馬を余儀なくされた。しかも山口県のある中国ブロックではなく、北関東ブロックへと飛ばされたあげく、落選している。翌2022年の参院選でも比例区から立候補したが、落選した。
建一氏はこのままでは当選は叶わないと判断し、7月18日に自民党本部に離党届を提出。翌日に日本維新の会から東京6区で立候補することが決まった。
自民党山口県連と建一氏は、お互いを「信頼関係の破壊」と非難している。河村氏とすれば、信頼関係が崩れた以上、機密費のことを話してもいいと思ったのだろう。が、そのような人物を「女房役」の官房長官に起用した麻生氏の、人を見る目のなさが露呈したともいえる。ここまで話した以上、野党対策として野党議員にいくら渡したか、詳細も明らかにすべきだろう。
(喜多長夫/政治ジャーナリスト)