アメリカという“虎”の尾を踏んだ習主席は、党と人民解放軍の面目をまる潰れにする失態を招いた。
「イージス駆逐艦が航行した日、中国では年に1度の重要会議である『5中全会』の真っただ中。また翌日には、習主席が最も重視している人民解放軍の記念行事『古田会議』が予定されていました。党の幹部がそろっていながら、『自国の領域』に入った米軍の行動を制止できず、共産党トップとしての求心力を危うくさせています」(近藤大介氏)
習主席を悩ませるのは党・軍だけではない。中国当局が景気テコ入れ策を次々に打ち出しても、景気減速が止まらないのだ。中小企業には、倒産ラッシュが始まっている。ダンマリ会談の先には、日中間の経済協力など、多くの「対日要求」が待っていると考えたほうがよさそうだ。
3カ国首脳会談に続く翌11月2日には、同じくソウルの青瓦台で、安倍総理と朴大統領が初めて会談した。
朴大統領は就任以来、日韓首脳会談の開催は、慰安婦問題の解決を事実上の前提条件にしていた。慰安婦問題は「解決済み」とする日本との立場は対照的。それがなぜ実現することになったのか。韓国事情に詳しい東京新聞編集委員の五味洋治氏はこう話す。
「朴大統領の反日外交は、民間ベースで文化交流やビジネスに悪影響を及ぼしています。韓国経済は中国頼りで、輸出全体に占める割合は25.7%。中国はバブル崩壊で失速していて、このままでは一緒に転ぶ可能性も出てきた。それを懸念した経済界から、日本を無視したら自分たちが損するので、この機会に安倍総理と関係回復するように声が上がっていたのです。初会談により完全に関係改善、とは言えませんが、一歩進んだのではないでしょうか」
しかし実現までには、水面下で綱引きが繰り広げられていた。官邸担当記者はこう明かす。
「正式発表はギリギリの10月29日。菅義偉官房長官には、本当に開催するのかと、記者から質問が殺到していた。また、中国と日本の扱いも段違いで、中国の李首相に対しては公式訪問として最高級の格式で出迎え、晩餐会まで用意されていた。31日は全て中韓協議に時間を割いたのに比べ、日本には、『会談時間は30分』と伝えてきたのです。日本側が不満を示すと、昼食会を開くので慰安婦問題を譲歩するように求めてきた。それに対して安倍総理は、『昼飯のある、なしで国益を損なうわけにはいかない』として断ったそうです」
結局、首脳会談は約1時間45分行われ、多くの時間が慰安婦問題に費やされたという。安倍総理は会談後、記者団にこう話している。
「早期の妥結を目指して交渉を加速させていくことで一致した」
この言葉を聞くと、進展があったように思えるが、同行した記者はこう話す。
「首脳会談では日本側から、『あなたたちが言っている解決とは何ですか?』と尋ねると、はっきり答えなかったそうです。金銭なのか、政治的責任なのか、韓国側は決まっていなかった。それでも安倍総理は、会談中に朴大統領が感情的にならず、冷静に話していたことを評価して、リップサービスのつもりで『早期の妥結──』と記者団に話したのです」
主導権は安倍総理が握っていたようだ。