仕事柄、危機管理の専門家を取材することがあるが、彼らが口を揃えて言うのは、不祥事や事件を起こした際の初期対応いかんで、状況はいかようにも変化するということだ。
近年は著名人が問題発言などに及んだ場合、まずはウェブサイトで謝罪、その後にメディアをチョイスして登場し、涙ながらに謝罪するというパターンが一般化している。改めて記者会見を開いて直接、視聴者らに説明する、というケースは少なくなってきた。
しかし、実はこの方法、ひとつボタンを掛け間違えると、事態を鎮静化させるどころか、取り返しのつかない事態を引き起こす場合がある。思い起こせば、その典型的なケースが、2008年に勃発した歌手・倖田來未の大騒動だった。「女性は35歳を過ぎると羊水が腐る」という発言である。
この仰天放言が飛び出したのは、2008年1月29日のニッポン放送「オールナイトニッポン」でのことだ。自身のマネージャーから結婚報告を受けたとして、悪気なくそう発言し、
「だから、できれば35歳ぐらいまでには子供を作ってほしいなって話をしたんですけどね」
と続けたのだが、いかんせん選んだ言葉が悪かった。放送直後からSNS上には〈高齢出産や不妊治療をバカにしているのか〉〈人の尊厳を傷つける軽率な発言〉といった猛批判が集中。メディアで大々的に報じられると直後から、所属するエイベックスには抗議が殺到することに。
2月1日、倖田は自身の公式サイトで謝罪したものの、時すでに遅し。彼女をCMに起用する大手企業は、即座にCMと広告の中止を表明し、収録したテレビ番組も延期される大ゴトとなったのである。
そんな倖田が騒動後、初めて「FNNスーパーニュース」(フジテレビ系)に出演し、謝罪した。2月7日のことだ。ただ、ニッポン放送繋がりだったのか、出演はここだけで、しかもVTR出演だったこともあり、今度は他局から「どうしてフジの独占なのか」との批判が続出。騒動は収まるどころか、さらに火に油を注ぐ結果になった。危機管理の専門家いわく、
「初動で記者会見して説明、謝罪していれば、ここまでの大騒ぎにはならなかった見本のような事例」
そんなこともあり、二度と同じ轍を踏みたくないと考えたのか、「デキ婚」発表の際(2011年12月16日)にはSNSで済ませることなく、なんと安定期前の妊娠8週目という異例の早さで、記者会見に臨んだ。
「春前から仲良くさせていただいています。私が勝手に惚れてしまいました。一瞬で絆が生まれたんです。『いつでも結婚したいね』と話していて、結婚しない理由がなかった。プロポーズの言葉は恥ずかしいので内緒です。2人の思い出にしたい」
報道陣の前で大いにのろけたことを覚えている。「羊水」騒動から3年。まさに痛すぎる経験から教訓を得たかのような危機管理術が窺い知れる、記者会見となったのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。