芸能

立川志らく「師弟の間で空間を埋めるような会話をするな」/テリー伊藤対談(2)

テリー 「空間を埋めるな」って怒られたというエピソードも出てきますけど、普通は意味がわからなくて「はぁ?」ってなりますよね。

志らく 2人でいてシーンとした時に「今日はいい天気ですね」とか「今日は違う色の服ですね」とか、なんか埋めるじゃないですか。そうすると怒鳴りつけられますね。

テリー 何がダメなんですか。

志らく よく覚えてるのは、談志と2人きりになった時にパンの耳と冷や飯のお好み焼きを作ったんです。

テリー またへんなものを作りますね。

志らく 余り物を大事にする人だから。で、パンの耳と冷や飯を小麦粉で溶いたものを2つ作って、「ちょっと試食してみろ」って言われたんです。で、食べて、「ご飯の方がお好み焼きに合いますね」と。これ普通ですよね。私の感想なんだから。

テリー そうですよね。

志らく そしたら途端に不機嫌な顔になって。「あれ、パンの方を誉めた方がよかったのかな」と思ったら、帰る時に玄関のところで、「お前、さっきご飯のお好み焼きがおいしいって言ったな」と。「空間を埋めるような会話をするな。俺に気を遣わせるな。お前が俺に気を遣え」って怒られたんです。

テリー たまらないね(苦笑)。

志らく 普通の人なら別にいいんですよ。ただ、子弟なんだから、「お前は俺から吸収しに来てるんだ」と。「何で俺がお前に気を遣わなくちゃいけないんだ」「師弟の間で空間を埋めるような会話をするな」っていうことなんですよね。

テリー なるほど。

志らく それが弟子になった初日の小言でした。だから、突然何を言われるかわからない。兄弟子が師匠のうちで庭の掃除しながら落語の稽古してたんです。普通なら「掃除の時も落語の稽古をして、可愛い奴だ」ってなるじゃないですか。でも、そうじゃないんです。「稽古してるアピールをするな」と。怒鳴りつけられた弟子は何で怒られたのかわからない。アピールしてるわけじゃなくて、ただ一生懸命、落語の稽古してただけだから。そういうことは日常茶飯事でしたね。

テリー 談志さんに憧れて弟子入りしますよね。でも、実際に入ってみたら「とてもじゃないけど無理だ」ってことがあるじゃないですか。そういう時、「すみません、別の師匠のところに行きたい」っていうのはダメなんですか。

志らく 基本はダメです。破門された弟子を誰かが引き取るっていうのはありますけど。それも師匠同士で話がつけば。ちょっと例外ですけど、ダンカンさんがそうです。

テリー ダンカンって、あの?

志らく ええ。たけし軍団のダンカンさんは志の輔兄さんのほぼ同期ぐらい。ちょっと上ですね。ダンカンさんは弟子の仕事が何にもできなくて、何やってもダメだと。「このハガキ出しといてくれ」って言っても、「はい」って返事したままポケットに丸めて突っ込んで、出しに行くの忘れちゃうような人だったんで。

テリー へぇ。

志らく で、「お前、向いてないから、他に行きてえところはないのか」って聞いたら、「(ビート)たけしさんのところ」だと。それで談志がウイスキーに「立川談志、よろしく」って書いて、「これ持って、たけしのところに行ってこい」って。

テリー いい話ですね。僕はダンカンとは「天才・たけしの元気が出るテレビ!!」(日本テレビ系)でずっと一緒で。放送作家としては天才だったけど。

志らく 談志もクビにしなかったってことは何かあったんでしょうね。伝統芸能、落語の世界では無理だろうけど他ならと。そうじゃなかったら「よろしく頼む」って、たけしさんに渡さないです。

ゲスト:立川志らく(たてかわ・しらく)1963年、東京都生まれ。大学4年時に立川談志に入門。二つ目時代から兄弟子の「談春」と「立川ボーイズ」として活動し、深夜番組に出演するなど注目を集める。1995年、真打昇進。映画と古典落語を合体させた「シネマ落語」の創作、映画・演劇の作・演出・監督を務めるなど多方面で活躍。2016年10月より「ひるおび」(TBS系)にコメンテーターとして出演し、2017年上半期のブレイクタレント部門1位に。最新著書「師匠」(集英社)発売中。

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