中日がやみくもに補強を重ねた。出場機会を求めて巨人を自由契約となった中田翔を獲得。報道では「2年総額6億円」と言われている。さらに中島宏之(前巨人)、上林誠知(前ソフトバンク)、山本泰寛(前阪神)ら他球団を自由契約になった野手をかき集めた。2年連続最下位の最大の要因は貧打にあることは間違いないし、立浪監督が実績のある選手を欲しがる気持ちは十分にわかる。ただ、就任3年目に向けて方針にブレを感じる。
昨年は京田、阿部という実績のあるベテラン野手をトレードで放出した。立浪監督は若手を積極的に起用してチームを改革する強い意志があったはず。みずからの指導で打てるようになるという自信もあったと思う。実際に実力不足の選手をスタメンで起用することが多かった。その我慢と今オフの動きはつじつまが合わない。
中田が期待通りに4番打者としてしっかり働けばいいが、そんなに甘くはない。今年は92試合で打率2割5分5厘、15本塁打、37打点。ホームランの出やすい東京ドームから、最もホームランの出にくいバンテリンドームに本拠地を移して、数字を伸ばすのは簡単ではないはず。それよりもまず、35歳のシーズンに休まずに出場できる体を作ることが先決。体のあちこちに爆弾を抱えているようやし、どこまで打線を引っ張っていけるのか。
いずれにしろ、中田1人ではチームは変えられない。大野雄大の契約更改の際の発言に共感した。「このままでは勝てない。選手がいちばんやらないといけないですけど、球団もそうですし、監督、コーチ、みんなが変わらないとチームは勝てない」と。ほんまにその通りやと思う。外から見ていると、選手と監督、選手と球団の間に溝を感じる。
試合前に選手が白米を食べることを禁止したのも、選手にしっかり説明して、納得させてのことなら、とやかく言われる問題ではなかった。コミュニケーション不足を感じるのは立浪監督だけでない。球団と選手の間もギクシャクしているように見える。契約更改では規定投球回数をクリアした柳、小笠原の2人が保留した。柳は防御率2.44で4勝11敗。打線の援護があれば当然もっと白星は増えたはず。契約更改でモメるのは十分に予測できた。柳は「下交渉がなかった」と漏らしたが、球団の配慮が足らなかったと言われても仕方がない。
2年連続最下位から巻き返すには、大野の言うように、立浪監督も球団も変わらないといけない。コミュニケーションをしっかり取らないと空中分解してしまう。来季から外国人枠から外れるビシエドと中島は中田とポジションがかぶる。ベンチのムードが悪くならないように、うまくガス抜きする必要がある。移籍組以上に、生え抜きのベテラン大島も、気分よく野球をやらせないといけない。そして、それ以上に大事なのが若手の気持ち。若い選手を見捨てるような形には絶対にしたらアカン。
立浪監督は1軍の若手だけでなく、2軍の試合にも積極的に足を運ぶべきやと思う。いろんな選手に「期待しているぞ」と声をかけて回り、その気にさせるのが大事。若手、中堅、ベテラン一丸になって立ち向かわんと今の阪神には勝てない。負け続けても応援してくれるファンがいるんやから、本気で変わらないといけない。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。