優勝マジックを減らす段階で、チームとしての目標を失った相手は意外と戦いにくいもの。個人タイトルのかかった選手は勝敗関係なしに割り切ったプレーをしてくる。案外、そのわがままなプレーがチームの勝ちにつながったりする。投手もノンプレッシャーで投げ込める。ところが今年の中日は最下位にもかかわらず、優勝争いしているチーム以上に窮屈な野球をしている。
8月22日の阪神‒中日戦(京セラD)では、中日の選手にイライラさせられた。走者を三塁に置いたチャンスで2度の見逃し三振。投手は打たれるのを怖がって9四球。今さら借金が1つ増えたところでどうってことないのに、何でストライクゾーンで勝負しないのか。立浪監督が戦う集団を作ることを期待していたけど、就任2年目は昨年より悪い戦いをしている。
球団新記録の29試合連続安打をマークした岡林も、見ていてふがいなさを感じる。何でもっと走らへんねん。あれだけ出塁しながら8月22日時点でわずか10盗塁。昨年は24盗塁しており、今年は最低でも30はクリアしなアカンところ。まだ21歳。疲れなんて一晩寝たら取れる。若い頃から楽を覚えたら成長がストップする。走攻守3拍子そろった選手やのに、周囲はもっと高いレベルの野球を求めるべき。走りたがらないのならどんどんベンチからサインを出して背中を押せばいい。それが来年以降の岡林の野球につながる。「ヒットさえ打てばいい」という選手にはなってほしくない。
冗談のように取られがちやけど、盗塁を増やす最大のコツは何といっても塁に数多く出ること。代走ではタイトルには届かないんやから。ヤクルトの並木もいい足をしているが、いかんせん打つ方の力が足りない。阪神の近本は2年連続4度目の盗塁王に余裕を感じる。ここまで22盗塁は2位の並木に7差。ほんまは近本ももっと走れるだけに、強力なライバルがいればハイレベルの争いになるんやけど。中日の岡林だって、残り30試合で10差ぐらいならチャンスはある。1日で2つ、3つ稼げる時もある。チームがこういう状況だからこそ、本気で逆転盗塁王を狙うべき。
盗塁でもう1つ話しておきたいのが、8月18日の阪神‒DeNA戦(横浜)でのプレー。阪神が1点を追う9回1死で一塁走者の熊谷が二盗を試みたが、ワンバウンド送球を処理した京田の足がベースをブロック。判定はセーフやったが、リクエストの結果は足が届いていないとしてアウト。京田のブロックも故意ではないと判断された。岡田監督が猛抗議した気持ちもわかるが、あれは走塁妨害には取れない。
ただ今回の判定をいいことに、悪質なベース前の座り込みは認めたらアカン。阪神がセ・リーグに意見書を出して、連盟も検討するという。ケガを防ぐためにもその方がいい。僕も現役時代に盗塁阻止しようとブロックした相手をケガさせたことがある。ベースを足でわざと隠すから、スライディングで太もも部分を削らざるを得なかった。スライディングを止めると逆にこちらがケガしてしまうから。中には硬いすね当てを入れる卑劣なヤツもいた。知らずにブロックされて血だらけにされたこともある。そんな痛い思いをしながらも、走り続けた。
今の選手はもっと歯を食いしばって盗塁にチャンレンジしてほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。