事実上、唯一の脱北ルートとされてきた中朝国境ルート。ところが「北の独裁者」こと金正恩総書記は2020年1月以降、豆満江沿いの国境地帯に二重フェンスや警戒監視所などを造設するとともに、北朝鮮人民軍の工作機関・偵察総局の要員を送り込む。脱北者の監視と摘発を強化するなど、脱北ルートの完全封鎖に乗り出したのだ。
韓国で脱北を支援している団体など、複数の関係者によれば、中国人ブローカーの手引きによって豆満江を越えた脱北者はまず、ブローカーから偽の身分証を受け取って中国朝鮮族になりすます。その後、鉄道やバスなど、陸路で東南アジアとの国境まで移動。タイなどに入国して韓国政府に保護を求め、空路で目的地の韓国へと逃げ込む…というのが、典型的な脱北方法だったという。
ところが「中共の独裁者」こと中国の習近平国家主席も、脱北阻止に血道を上げる金正恩に呼応する形で、タッグを組んで動いている。中国国内に潜伏する脱北者の検挙に乗り出しているというのだ。習近平政権の内情に詳しい国際政治ジャーナリストが明かす。
「習近平は国内の脱北者を不法滞在者と位置づけ、次々と逮捕しては北朝鮮へ強制送還しています。脱北者の検挙にあたっては、街中に張り巡らされた高性能監視カメラや顔認証システムなど、ハイテク機器が駆使される。最近は身分証のデシタル化によって、偽造が不可能になりつつあります。その結果、中国人ブローカーが秘かに手配した車に乗って東南アジア国境を目指すケースが増えているわけですが、習近平は高速道路や一般道路での検問を強化するなどして、不法滞在者一掃の大号令をかけ始めているのです」
現在、不法滞在者として逮捕され、収監されている脱北者数は3000人に迫るといわれる。これらの収監者は新たな収監者と入れ替わる形で、次から次へと北朝鮮に強制送還されているというのだ。国際政治ジャーナリストが続ける。
「中国から北朝鮮へと強制送還された脱北者の運命は悲惨です。ことごとく強制収容所に送られ、思想教育の名のもと、出口のない強制労働を課される…。ところが多くの場合、極刑を言い渡されて処刑される、というのが偽らざる実態でしょう。中には脱北者の家族もろとも処刑されるケースもあると聞いています」
金正恩と習近平。極東アジアの一角に君臨する2人の独裁者は今、阿吽の呼吸で悪魔の所業に手を染めているのだ。(つづく)
(石森巌)