迫りくる飢餓、閉ざされた脱北ルート、銃殺による見せしめ処刑――。北朝鮮で今、「餓死」と「拘禁」と「粛清」の三重苦が泥沼化している。
言うまでもなく、北朝鮮人民を絶望と恐怖のドン底に追い込んでいるのは、絶対的な独裁者として君臨する金正恩総書記だ。本連載では「楽園」と喧伝されてきた北の地を覆い始めた地獄の驚愕実態を、6回にわたってレポートしていく。
まずは絶望的な飢餓地獄から。韓国で脱北を支援している団体の関係者らが、国内外のメディアに語ったところによれば、ここ数年、北の住民から、次のような「悲痛なSOS」が頻繁に舞い込むようになったという。
「食い物がほとんどない。このままでは餓死する。韓国に逃げ出したい」
危機的状況を一気に加速させたのは、2020年に始まったコロナ禍だった。韓国の脱北支援団体と親しい国際ジャーナリストが指摘する。
「2020年1月、金正恩は新型コロナウイルスの流入を防ぐため、中朝国境でのヒトとモノの往来を止めました。その結果、わずかな闇ルートを除き、中国からの食糧供給がストップ。返す刀で北の独裁者は国連による食糧人道支援まで拒否してしまったため、2600万人とも言われる人民が飢餓と餓死に直面することになったのです。その影響は都市部の中間層にも及び始め、最近は首都・平壌でも餓死者が続出する事態に陥っています」
しかも2020年1月以降のこれまでの餓死者数は、1990年代半ばに発生した前代未聞の深刻な食糧危機、いわゆる「苦難の行軍」のそれをすでに上回っている、とも言われているのだ。国際ジャーナリストが続ける。
「1994年から98年までの苦難の行軍では数十万人の人民が餓死したとされているわけですが、ここ数年の餓死者数は、現時点で50万人を超えているとの試算があります。加えて金正恩が『2025年までは食事の量を減らし、腹のベルトを締めて苦難に耐えよ』の大号令をかけた、という報道もある。今後、北朝鮮国内での餓死者数が100万人の大台を超え、さらに膨れ上がっていくとの懸念も浮上しています。まさに地獄絵と呼ぶべき惨状ですね」
だが、これは悪夢の始まりにすぎなかった。次回以降では、さらなる地獄絵に迫る。(つづく)
(石森巌)