飢餓にあえぐ北朝鮮人民の脱北阻止に血道を上げている金正恩総書記は、海外からの帰国者にも監視の目を光らせている。
2023年8月、北朝鮮の国家非常防疫司令部は対コロナ防疫態勢を緩和し、海外に滞在していた北朝鮮人民の帰国を認めると公表。だが帰国容認の裏側では、金正恩による「密着監視指令」のもと、帰国者らに対する厳しい身辺調査が実施されていた。
思想調査や行動検閲の対象とされたのは、中国やロシアなどから帰国した労働者や留学生、在外公館員など、6000人以上。帰国者らは帰国と同時に隔離されると、政治犯やスパイなどを監視、摘発する国家保衛省が作成した「海外生活評定書」に基づき、海外での生活実態、事件や事故への関与などの調査を受ける。このほか、敵性国家への協力や情報の漏洩といった「体制離脱行動」がなかったかどうかなどを、徹底的に調べられたというのだ。
金正恩の動静や北朝鮮の内情に詳しい韓国情報筋の関係者が明かす。
「金正恩が密着監視を発令した背景には、帰国者から外部情報や自由思想が北朝鮮内に流入し、独裁体制が揺らぎ始めることへの恐れが横たわっている。実際に『体制離脱行動はなかった』と判定されるまで、帰国者らは家族と再会することすら許されなかったといいます。ごくわずかな問題が発覚しただけで国家保衛省に身柄を移され、事件として処罰された帰国者も少なくなかったと聞いています」
実は2020年12月、金正恩は韓国ドラマをはじめとする南の文化を流布した者を「最高で死刑」とする法律を発布している。韓国情報筋関係者が続ける。
「今回の帰国者に対する身辺調査でも、海外滞在中に韓国の映画やドラマを日常的に視聴していた事実が発覚すると、『銃殺刑』に処されています。銃殺されたのは貿易会社に所属していた労働者とされ、使用していた電子機器の検閲によって、視聴の事実がバレてしまったようです。その後、上司にあたる幹部らも管理責任を厳しく問われ、長期の懲役刑を言い渡されたのだと…」
韓国の映画やドラマを見ただけで銃殺。しかも、上司らまでが厳罰に処される。まさに残虐と恐怖の大粛清と言うほかはない。(おわり)
(石森巌)