ふだん何気なく乗る、客待ちのタクシー。そこには乗客がうかがい知れない「仁義なき縄張争い」が跋扈し、恫喝、暴力、嫌がらせ、みかじめ料徴収と、いったいどこの世界かと見まがうばかりの光景が繰り広げられているのだった。関西タクシー業界の黒い病巣を、当事者が告発する。
「仁義なき戦い」といえば、先頃死去した菅原文太の代表作だが、これは何も極道の世界に限った話ではなかった──。
実は関西、とりわけ兵庫県では、タクシー業界の縄張争いをはじめとした熾烈な「抗争」が展開されているという。
「タクシードライバーは弱肉強食の世界。いかに自分たちがいい場所を押さえられるか。そのためには手段を選ばんヤツがかなりおるんや。タクシー業界で蔓延する大半の問題は、タブー中のタブー。ケツ持ちに警察、もしくはヤ○ザOBがおる」(40代ドライバー)
中でも地元のドライバーたちは、関西の玄関口たる「大阪空港(伊丹空港)」のタクシー乗り場を忌避する。怒号や恫喝、あげくに刃物までが飛び交う無法地帯と化しているからだ。この40代ドライバーが続ける。
「大阪空港の乗り場は長距離と近距離の2つが用意されていて、ポーター(案内係)が乗客の行き先を聞いて乗り場の振り分けをしとるんや」
大阪空港は関西でも屈指のタクシー競合地区。国際線が廃止された現在でも、毎日100台以上のタクシーが構内に乗り入れている。ちなみに、ここで言う長距離は、空港から芦屋市以西のことを指す。長距離客は1万円以上の売り上げが見込め、日に3回でも走れば、ドライバーの平均月収の数倍という収入を得ることができる。
「大阪空港におるドライバーは誰でも長距離に行きたい。だけども、今年2月から長距離の乗り場は、とある人物に仕切られとる。そいつの許可ナシに入ることはできんのや」(40代ドライバー)
その人物が、山下聡氏=仮名=という男だ。山下氏は有名私立大学を中退。その後、タクシードライバーになったという。
「山下は空港にいるドライバーのうち、スネに傷のあるヤツらを集めてグループを作りよった。その中には元暴力団組員や前科者までおった。普通のドライバーはそのグループに関わりたないと思って距離を置いていた」(地元タクシー業界関係者)
他のドライバーが近寄らなくなると、山下氏のグループは空港内で好き放題。傍若無人のふるまいをするようになる。
「あいつらが最初にやったのは、長距離乗り場からの、一般のドライバーの追い出し。自分たちのグループ以外は長距離乗り場に入れんように脅しをかけてきたんや」(40代ドライバー)
その行為は徹底しており、長距離の乗り場に近づくと、数人がかりで囲んで恫喝。それでも乗り場から離れないドライバーには暴力を振るうケースもあったという。