フェスは「地雷」なのか…。
東京都は1月16日、上野公園で1月6日から8日に開かれた「牡蠣フェス」で飲食した男女35人(16~67歳)が下痢や嘔吐、発熱を訴え、集団食中毒になったと発表した。複数の発症者からノロウイルスが検出されたが、全員軽症だという。
軽症といってもノロウイルス感染は、自分がマーライオンになったと錯覚するような激しい嘔吐と、水のような便が半日から2日間も続く。感染から発症までの潜伏期間は12時間から48時間。電車や地下鉄、車でフェスから帰る途中で発症した人がいたとしたら、まさに地獄絵図だ。
同フェスでは生牡蠣は出しておらず、バター醤油焼きや蒸しカキ、牡蠣鍋など14種類の牡蠣料理と40銘柄の日本酒を提供していた。主催者のサイトによると「牡蠣のバター醤油焼き」ブースで加熱不足による食中毒が発生した可能性があるとして「楽しい思い出を作っていただこうと活動してきたが、このような事態になり申し訳ない」と謝罪した。来年の同フェスは中止になる見込みだ。
牡蠣が「なま焼け」だったのも無理はない。主催者によれば、同フェスには3日間で約11万人が来場。1日あたりの来場者が4万人弱として、十分に加熱してから牡蠣料理を提供するには、あまりに出店ブースが少なすぎた。キャパシティーオーバーの来場者を待たせてはいけないと、加熱が不十分になってしまったのだろう。
かといって数日前から作り置きをすれば、大きく報じられた昨年の「糸引きデスマフィン」のような大惨事が起こる。
さらに牡蠣は当たるも当たらぬも八卦。ノロウイルスは発症者の便から下水、下水から河川に流れ着き、海中の牡蠣がウイルスを取り込む。特に今年のように太平洋側で晴天が続き、降雨量の少ない年は川や河口の水中に含まれるウイルスが雨水で希釈されることがないため、牡蠣に当たりやすいと言われる。
こういう「当たり年」は生食用の牡蠣を調理するか、カキフライなど高温調理であっても十分に中まで加熱することが必要だ。
それにしても、デスマフィンに続く牡蠣食中毒。新型コロナによる自粛が続いたことで、飲食店の勘が鈍っている面もあるだろうが、数万人の来場が見込まれるフェスやイベントで、火力に限界がある屋台での食事提供には無理があるのではなかろうか。主催者は仮設のセントラルキッチンを設置するなど、来場者が安心して食事を楽しめる環境を整えてほしい。
(那須優子/医療ジャーナリスト)