8月上旬、埼玉県のスーパーで販売されたポテトサラダから病原性大腸菌O-157が検出され、5歳の女児が溶血性尿毒症症候群を発症しました。現在は意識を回復されたそうです。
梅雨から初秋にかけて、怖いのが食中毒です。一方、近年は夏になるとイカなどに寄生するアニサキスによる腹痛も増えているようです。では、食中毒と寄生虫はどちらが危険でしょうか。
代表的な食中毒の原因菌であるO-157は家畜の糞便で汚染された水や食物を介して人に入り感染症を起こします。主に、大腸菌の増殖を招き激しい腹痛とともに下痢や血便の症状が出ます。加えて、乳幼児や高齢者は重症になりやすく、劇症型の場合は嘔吐・下痢から腎不全になり、死に至るケースもあります。
同じく死亡例もあるノロウイルスは、汚染された井戸水や、牡蠣などの二枚貝を加熱せずに食べることにより感染します。O-157と同じく嘔吐や下痢の症状が出て、脱水症状を起こします。
コレラや赤痢は、一般的には伝染病とされていますが、O-157やノロウイルスと同じく食中毒であることに変わりはありません。他にも、サルモネラ菌やブドウ球菌、腸炎ビブリオなども怖い細菌性食中毒として知られています。
対して、寄生虫は死亡率が低く、症状の経過も長くて数カ月という単位です。アニサキス以外の寄生虫にはサナダムシやギョウチュウがいます。
人間の口から入るのは成虫ではなく卵であり、人間の体内で成虫となります。寄生虫は、人間に寄生するだけで、死亡するケースはきわめてマレです。なぜなら寄生虫は、人間との「共生」を前提としているからです。
現代では寄生虫と「共生」することでダイエット効果につながる「究極のダイエット」方法もセレブの間で広がっているようです。ソプラノ歌手のマリア・カラスは、年を取ってから太ってしまったため、痩せるためにサナダムシの卵を飲んだと言われています。
また、寄生虫にはアレルギー反応を抑制する効能もあると言われています。清潔社会の日本では、人間の体から寄生虫がいなくなった結果、花粉症やアレルギー反応が起こっている、という説もあるほどです。
アニサキスは本来、サバやアジ、イカ、クジラなどの海の生物に寄生しています。アニサキスが寄生しているサバやクジラには当然ながら害はなく、人間が口にした場合には胃の壁で防御反応が起こります。
つまり胃の中でアレルギー反応が起きたために猛烈な腹痛が生じるのです。アニサキスによる腹痛はしばらくすると治まりますが、再び繰り返し腹痛が襲います。この繰り返しの間隔が長くなると、やがてアニサキスは死滅します。
実は、寿司屋の板前さんの仕事ぶりを見ていると、生の魚の体内からアニサキスを取り除く作業を見かけることがあります。これはアニサキスによる食中毒を予防するためには必要不可欠と言っていいでしょう。つまりアニサキスは「いて当然」の寄生虫であり、仕事が丁寧な高級寿司店ならば、安心して寿司を楽しむことができるでしょう。
もちろん寄生虫の症例はさまざまであり、人間の脳内や内臓に寄生する例も報告されています。しかし、人体に重篤な症状や死亡率を比べた場合、食中毒のほうがはるかに危険と言えます。
■プロフィール 秋津壽男(あきつ・としお) 1954年和歌山県生まれ。大阪大学工学部を卒業後、再び大学受験をして和歌山県立医科大学医学部に入学。卒業後、循環器内科に入局し、心臓カテーテル、ドップラー心エコーなどを学ぶ。その後、品川区戸越に秋津医院を開業。