プロ野球は12球団がキャンプインし、いよいよ新しいシーズンが始まった。38年ぶりに日本一になった阪神の選手らはオフにイベントなどで引っ張りだこになったから「時間が経つのが例年より早いな」と感じてると思う。でも、球場のセンターポールになびくチャンピオンフラッグが誇らしい気持ちにさせてくれる。
僕は阪急でキャンプから打倒・巨人に燃えていた。1976年に目標を果たし、翌年のキャンプで日本シリーズ王者のフラッグを掲げた時はうれしかった。満足するどころか「今年も巨人に勝つぞ」と気合いが入り、2年連続の日本一につながった。3年連続日本一はヤクルトに阻止されたけど、あの当時の充実した気持ちは今も忘れられない。振り返ってみると、チームの黄金期やった。
優勝経験のなかった阪神の選手らは勝つ味を覚え、大きな自信につながった。野手は伸び盛りの若い選手が多いからガタッと成績が落ちる心配はない。心配があるとすれば投手の方。近年の野球は分業制が進んで、リリーフ陣が酷使される。優勝チームは無理する部分があるから、特に翌年に疲れが残る。昨年のヤクルトは典型的な例やった。リーグ2連覇の疲れが投手陣全体にどっと出て、5位に終わった。主砲の村上の不調も大きなマイナス材料やったけど、一番の敗因はチーム防御率リーグワースト3.66の投手陣やった。
ただ、阪神の場合は他球団と比較して、先発もリリーフも使える頭数が圧倒的に多い。先発投手は昨季2ケタ勝利をマークした大竹、村上、伊藤将の3人に加え、青柳、才木、西勇輝、西純矢らで争うローテは12球団屈指。岡田監督が昨秋から大絶賛する高卒2年目左腕の門別が控えている。さらには手術明けの髙橋遥人まで自主トレからブルペン入りして、復活気配を見せている。髙橋遥人はもともとエース級の力を持っている。みんなが順調なら先発ローテを2チーム分作れるほど。ローテ争いから漏れた投手はリリーフに回せるし、ここに昨年は離脱した湯浅が復活すれば盤石やと思う。
岡田監督はテレビ番組の収録で顔を会わせた時、就任1年目より手応えがある様子やった。「相当な覚悟」と阿部新監督の巨人の巻き返しを警戒しているものの、総合力が違う。阪神は球団史上、リーグ連覇をしたことはないけど、今年は「アレンパ」の可能性が非常に高い。僕も沖縄にキャンプ取材に行くので、王者の練習をじっくりと見させてもらう。
それと、最後に佐々木朗希について言っておきたい。選手会から脱退していたと聞いて驚いた。僕の現役時代の1985年に組合として発足して、様々な権利を勝ち取ってきた。あんな若い選手が、自分だけ抜けようなんて発想になることが不思議でならない。裏で誰かが糸を引いているように勘ぐってしまう。ただ、一つ言えるのは、FAもポスティングも先輩たちが勝ち取ってきた権利であること。選手会を抜けた選手がそれを当然の権利のように使うのはどうなのか。
夢は大切にしてあげたいけど、影響力のある選手やから悪しき前例にならないようスムーズに挑戦する形が望ましい。イメージが悪くなったのは仕方がない。払拭するにはグラウンドで力を示すしかない。まずは誰もが納得する成績を残してほしい。
福本豊(ふくもと・ゆたか):1968年に阪急に入団し、通算2543安打、1065盗塁。引退後はオリックスと阪神で打撃コチ、2軍監督などを歴任。2002年、野球殿堂入り。現在はサンテレビ、ABCラジオ、スポーツ報知で解説。