02年9月、小泉純一郎総理(82)が訪朝し、金正日総書記(享年70)と日朝首脳会談を行った後、拉致被害者5人が日本に帰国できたのは周知の通りだ。
それから、拉致問題は一向に進展せずに膠着状態が続いている。しかし、14年に北朝鮮側から水面下で「2人が生存している」という情報が寄せられた。
政府が認定している拉致被害者の田中実さんと、「拉致の可能性を排除できない行方不明者」としている金田龍光さんだ。有力情報にもかかわらず、なぜ日本政府はダンマリを決め込んでいるのか。自民党関係者はこう説明する。
「北朝鮮側は田中さんと金田さんの一時帰国を提案する一方、再調査の『中間報告』で横田めぐみさんらの安否不明者は『死亡』と主張を変えず、拉致問題を終わらせようとしたのです」
政府としては到底受け入れられる内容ではなかったのだろう。五味氏が続ける。
「田中さんと金田さんは同じ養護施設の出身で、日本に家族や身寄りがないと言われていました。北朝鮮にすれば一時帰国しても、ハレーションが少なく都合がよかったのかもしれませんが、日本政府は横田めぐみさんや有本恵子さんが帰国しなければ、世論が納得しないことを懸念していました。それで安倍晋三総理(享年67)が提案を拒否したのです。そこから拉致問題は停滞し、日本政府にとって田中さんと金田さんの話はタブーになりました」
20年6月の参院本会議でも2人について質問された安倍総理の答えは、
「支障をきたす恐れがあるので答えは差し控えます」
と、にべもないものだったが、ここに来て拉致問題が大きく進展する可能性が出てきたのだ。
日朝首脳会談が実現すれば、日本が拉致問題の交渉をしてくることは明白なので、北朝鮮はすでに周到に準備を進めているという。五味氏の内部情報によれば、
「日本にいる脱北者の方に聞いた話では、平壌郊外に帰国する候補者を3つのグループに分けて、『特閣』(グレードの高い宿泊施設)に集めています。そこでは、帰国した時の見栄えをよくするため、肉を食べさせてガリガリの体を増量させ、治療ができずボロボロになった歯を治したりしている。また、田中さんと金田さんを公の場に出して記者会見をさせたり、日本政府が把握していない拉致被害者を帰国させるという話も出ているそうです」
そうなると俄然注目されるのが、3月のW杯2次予選で「接触」した後の「電撃訪朝」のタイミングだ。
「岸田総理は外務大臣を4年8カ月務めた経験もあり、外交上で実績を残したい野望を持っています。今の様子だと、4月、5月、6月にでも電撃訪朝を検討して、小泉元総理と同じように『成果』を上げようと考えているのではないでしょうか」(五味氏)
一方、この極秘交渉の裏で、日朝首脳会談を是が非でも実現させたい北朝鮮の思惑はどこにあるのか。