近年、高齢者の「低栄養」が問題となっている。背景には思わぬリスクが潜んでいるという。「低栄養」とは、食事量の減少や食事内容の偏りなどの理由から栄養状態が悪くなり、体を動かすために必要なエネルギーやタンパク質などの栄養素が不足している状態を指す。この状態が続くと、健康な状態を維持することが難しくなる危険がある。
指標のひとつが「BMI(体格指数)」だ。これは「体重(㎏)÷身長(m)の2乗」で求めることができる。特に高齢者はBMIの値が20を下回ると低栄養のリスクが高まるといわれている。 厚生労働省が発表した「令和元年度 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、85歳以上では男性の17.2%、女性は27.9%が低栄養となっている。特に男性は、年齢が上がるにつれて増加する傾向がある。
高齢者が「低栄養」に陥りやすい原因としては、子供の独立や配偶者との死別などによる孤食化、経済的な困窮による粗食化、運動量の減少に伴う食事量の減少などが挙げられる。
「低栄養」を放置しておくと「フレイル(虚弱)」に陥る危険性がある。発症すると、体重減少、サルコペニア(筋力の低下)の症状などが見られ、さらに進行すると、骨や関節の傷害、筋力の低下により移動機能に支障をきたす「ロコモティブシンドローム」に陥る危険もある。
予防策は日頃の食生活がポイントだ。バランスの取れた食事、特にタンパク質の摂取が重要だ。肉や魚だけではなく、卵や乳製品、大豆製品などをメニューに取り入れたい。タンパク質の合成を促進するビタミンやミネラルも野菜などから摂取することを忘れないように。かつては「粗食の方が健康にいい」と言われていたが、健康寿命の延伸のためには低栄養の予防に努めることが肝心だ。
田幸和歌子(たこう・わかこ):医療ライター、1973年、長野県生まれ。出版社、広告制作会社を経てフリーに。夕刊フジなどで健康・医療関係の取材・執筆を行うほか、エンタメ系記事の執筆も多数。主な著書に「大切なことはみんな朝ドラが教えてくれた」(太田出版)など。