福島第1原発処理水の海洋放出をめぐり、昨年8月、習近平国家主席率いる中国は、日本産水産物の全面禁輸に踏み切った。イチャモンとしか言いようのないこの措置は今も続いており、昨年の日本産水産物輸出額の伸び率は、大幅な鈍化を余儀なくされた。だがここに来て、状況は大きく変わり始めている。
ジェトロ(日本貿易振興機構)は昨年秋以降、タイやベトナム、アメリカ、メキシコなどに対して、日本産水産物の売り込みを強力に推進。その結果、例えば昨年9月から12月のアメリカへのホタテの輸出額は前年同期比で約2倍、今年1月のベトナムと台湾への同輸出額は前年同月比で、それぞれ約5倍、約2倍へと急増した。今年1月の日本産水産物の総輸出額も、前年同月比で2.7%増へと回復の兆しを見せ始めているのだ。
一連の反転攻勢の背景には、2001年に日本を襲ったBSE(牛海綿状脳症)禍での成功体験がある。実はこの時も中国は日本産牛肉の輸入を停止し、一部の品目を除いて禁輸は今もなお続いている。ところが和牛の品質の高さが世界的に認められた結果、日本産牛肉の輸出額は右肩上がりを続け、昨年は2004年の100倍超となる570億円を弾き出している。
中国による日本産水産物の禁輸問題を取材してきた、全国紙社会部記者が明かす。
「日本産牛肉と同様、日本産水産物の脱中国化は急速に進んでいくでしょう。もはや中国など相手にしない、というわけです。事実、日本産水産物の輸出に携わる一部の関係者からは『買いたくないなら、それでけっこう』『中国人に食わせる魚はない』といった、強気の発言が飛び出し始めています」
言うまでもなく、30年をかけて海洋に放出される原発処理水の濃度は、国が定めた排出基準や、WHO(世界保健機関)が定めた飲料水基準を大きく下回っている。
筋違いも甚だしい禁輸措置を続ける中国は、いずれ「買いたくても売ってもらえない」窮地に追い込まれるかもしれない。まさに自業自得なのである。
(石森巌)