「人食いバクテリア感染症」の異名を持つ「劇症型溶血性レンサ球菌感染症(STSS)」の患者数が、日本国内で激増の一途を辿っている。
国立感染症研究所によれば、昨年1年間に国内で報告された患者数は、前年比209人増の941人(速報値)に達し、調査を開始した1999年以降、過去最多を記録した。
今年に入っても患者数の増加は続いており、2月25日までの約2カ月間における国内患者数は378人(速報値)と、早くも昨年1年間の患者数の4割を超えた。恐怖の人食いバクテリア感染症は、かつてないペースで広がり始めているのだ。
STSSの原因となる溶血性レンサ球菌(溶連菌)はごくありふれた細菌で、例えばA群溶連菌は、子供の咽頭炎などを引き起こすことで知られている。多くの場合、溶連菌に感染しても風邪に似た症状が出るだけで軽快するが、まれに命にかかわる深刻なSTSSを発症することがある。
STSSは発熱や手足の痛みなどから始まる。その後の病状の進行は非常に急激かつ劇的で、発症から数十時間以内に手足や臓器などが壊死し、多臓器不全からショック状態に陥って死に至るケースも少なくない。
A群溶連菌によるSTSSの致死率は約30%とされているが、異なるタイプの溶連菌の場合、致死率は70%に達する場合もあるというから、なんとも恐ろしい感染症なのである。
一連の患者激増を受け、厚生労働省は今年1月に患者から採取した溶連菌の解析を進める一方、全国の自治体に緊急の通知を出すなどして、警戒を呼びかけている。
とはいえ、治療や予防に限界があるのも事実だとして、全国紙科学部記者が次のように指摘する。
「治療薬としてはペニシリン系の抗生剤が第一選択肢となりますが、薬石効なしの場合、壊死に陥った組織を広範囲に切除しなければなりません。予防策としては手洗いやマスクの着用くらいしか方法はなく、体調の異変を感じたら即座に医療機関を受診することが肝要となります。要は時間との勝負。ちなみにSTSSは世界的に増加傾向にありますが、なぜ患者数が増えているのか、その理由はよくわかっていません」
あらゆる感染症に共通するように、結局は自身の免疫力が鍵を握るということか。
(石森巌)