桜の開花を待ち望む時期に、不穏すぎるニュースが入ってきた。東京や大阪、京都で「麻疹」の感染報告が相次いでいるのだ。
というのも、新型コロナと入れ替わりで、世界的に麻疹が大流行中。3月11日に感染が判明した東京都足立区在住の5歳未満の乳幼児は、2月に南アジアから帰国したばかりだった。
麻疹は一度感染すれば生涯免疫がつくが、この1回の感染というのが厄介で、医療制度が整った先進国でも、麻疹脳炎の合併症を起こすことがあり、1000人に1人の割合で死亡者が報告されている。麻疹が重症化せずとも、顔や体に出た発疹が引いた後に、痕が残ることもある。
麻疹患者1人に対し、同じエレベーターや飛行機に乗り合わせた17人が感染するほどの感染力で、マスクや空気清浄機でも防ぎようがない。
このため日本では現在、麻疹風疹ワクチン(MRワクチン)の2回接種が推奨されているが、現在の30代から40代は1回のみしかMRワクチンを接種していない「空白の世代」で、他の世代よりも麻疹に感染、発症するリスクが高い。また新型コロナの影響で、MRワクチンが未接種のままの未就学児童もいる。
子供が脳炎になるのは恐ろしいのだが、麻疹は大人が感染した方がより重症化しやすい。特に妊婦はたった1回の接種では抗体が十分についておらず、感染した場合、お腹の子供の死産や流産、早産を引き起こす。日本国内で麻疹が流行った2007年には、妊婦が感染してお腹の赤ちゃんが亡くなる悲劇が起きている。
問題なのは、昭和の古い情報からアップデートされていない高齢医師や反ワクチン信者たちがSNS等で拡散しているデマ情報だ。自分たちは昭和の時代に感染して生涯免疫を持っているため、安全地帯から匿名でデマを拡散するが、前述の通り、ワクチン1回接種では免疫が不十分な上に、今の日本は想像の上をいく多民族社会だ。
バングラデシュやミャンマーなどのアジア最貧国から日本にやってきた外国人労働者とその家族は、日本なら1~2歳と6~7歳で接種するMRワクチンを接種する機会がないまま入国し、日本で懸命に働いている。
東京都は感染者のプライバシー保護の観点から、足立区の麻疹患者について「南アジアからの帰国者」以外の詳細を伏せているが、あくまで参考に書いておくと、都内では4500人ほどの在日バングラデシュ人が足立区、北区を中心に暮らしている。
今回、感染がわかった子供が南アジアから麻疹を持ち込んだ張本人とは限らず、我々が知らない間に下町の外国人コミュニティーで麻疹感染が潜在的に拡大している恐れはある。
在日バングラデシュ人は貧しかったため母国でMRワクチンを受けられなかっただけで、何の落ち度もない。公衆衛生的にも人道的にも問題があるのは、外国人労働者とその子供にワクチン接種の救済措置を怠ってきた厚労省と東京都だ。
卒園式、卒業式のシーズンに麻疹感染報告が出るのは、パンデミックを予感させる「イヤな感じ」である。
麻疹から自分と家族を守るためにできるのは、ワクチン1回接種の世代は追加接種すること。未接種の人は、この機会にMRワクチンを接種すること。麻疹流行が落ち着くまでは、人混みの多い場所を避けることだ。
そしてわが子の卒園式や卒業式に参列する妊婦は、周りが十分に配慮してあげてほしい。
(那須優子/医療ジャーナリスト)