芸能

舟木一夫「デビュー当時は町を真っ直ぐ歩けなかった」/テリー伊藤対談(2)

テリー 大ヒットの後って町を歩けたんですか。

舟木 デビュー1カ月目ぐらいからは、町は真っ直ぐ歩けなかったですね。今でも覚えてますけど、デビューして3カ月目か4カ月目の時に「高校三年生」の映画のロケで、ラーメン1杯食べるのに40分ぐらいかかりましたからね。町内中に「舟木が来てる」って行き渡ってるわけですよ。で、1口食べては色紙にサインして。ラーメンなんか、もう伸び伸びでね(笑)。

テリー マンションのセキュリティも今みたいにちゃんとしてないですよね。ファンの人は家まで来なかったですか。

舟木 週末、特に日曜日になると、大体150人から200人ぐらい、サインや僕の写真を撮るために、泊まりがけで地方から出てきたり。それで僕の顔を見ると、写真撮るなりしてすぐ帰るんですよ。だから、そのために30〜40分早く起きて、毎日サインして出かけてました。

テリー それこそ舟木一夫がどこに住んでるって、みんな知ってたんですよね。

舟木 でも当時は、だからって泥棒に入られたことも、イタズラ電話がかかってきたこともなかったんですよ。やっぱり当時のお客さんからすると芸能界がいかに遠かったか。僕自身が中学生の頃に感じてたように、東京に行っても芸能界ってどこにあるんだかわかんないっていう。

テリー 今みたいに身近じゃないですよね。コンサートで地方も行ったと思いますけど、地方はどんな感じだったんですか。

舟木 印象にあるのは、コンサートが終わって会場から出る時ですよね。1日3回公演が終わると。1回目、2回目、3回目のお客さんが全部待ってるんじゃないかっていうぐらい出待ちがすごいわけですよ。実際には帰る人もいるから全員がいるわけじゃないんですけれども。

テリー もう何百人がワーッと詰めかけてくる?

舟木 いや、千人単位ですよ。で、車が動けないからパトカーに先導してらうんだけど、タイヤでお客さんの足を踏んづけちったりとか。そうするとがゴットンってなるでしう。危ないなって思いましたね。時には楽屋口まで車が入れなくて、30メートルぐらい歩く時もあって、「今ここで包丁出されたらアウトだ」って思うぐらい、間までお客さんでいっぱいすから。今の若い人気者ちも同じだと思いますけど、僕らの時は、そういうのは結構アバウトでしたね。

テリー でも、日本の芸能史でも最高の時代ですよね。

舟木 同感ですね。今日まで歩いてきて、あの青春時代のようないい時代には遇ったことありませんね。

テリー お客さんも純情だし。今だったら、ちっとしたことでもネット大騒ぎだけど、そんなのないですもんね。

舟木 ないですね。それと今の芸能界には絶対ない、忘れられない話があって。どこの誰だかわからないんですけど、神田の共立講堂で公開録画なんかに行くと、「10円おくれ」って言うおじさんがいるんですよ。

テリー 舟木さんに?

舟木 そこに来る歌い手全員に。で、デビューして1年半ぐらいした時に、そのおじさんには何回も会ってるんですけど、ある時「100円おくれ」って言うんですよ。

テリー 値上がりしたんだ。

舟木 ええ。で、「えっ」と思ったけど、まあ100円差し上げて、僕がスッと行ったら、後ろで車を降りた歌い手さんに、それが聞こえたらしく、100円出したんですよ。そうしたら「お前はまだ10円でいい」って。

テリー ああ。おじさんなりの格付けだ(笑)。

舟木 そうなんですよ。だから、そういうところからも僕らの商売の厳しさっていうのかな、感じたりすることができたんですね。

ゲスト:舟木一夫(ふなき・かずお)1944年、愛知県生まれ。1963年、「高校三年生」でデビュー。累計230万枚の大ヒットに。同年、「第5回 日本レコード大賞新人賞」受賞、「NHK紅白歌合戦」に初出場。その後も「修学旅行」「学園広場」などのヒットを飛ばし、西郷輝彦、橋幸夫と共に"御三家"と呼ばれた。また俳優としてもNHK大河ドラマ「源義経」、連続テレビ小説「オードリー」、「銭形平次」(フジテレビ系)など多くの映画・ドラマ・舞台に出演。銭形平次の主題歌「銭形平次」も代表曲のひとつ。2022年に芸能生活60周年を迎え、現在も年間ツアーや座長公演を開催。「舟木一夫コンサート2024」を全国で開催中。「舟木一夫コンサート 2023ファイナル 2023年11月16日 東京国際フォーラムA」DVD&CD発売中。

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