芸能

舟木一夫「昭和のお客さんに向かって歌うという受け持ちなんだなと」/テリー伊藤対談(4)

テリー 全国っていうのはコンサートツアーで?

舟木 一番最初は「銭形平次」の芝居と歌謡ショーなんですよ。その時は予算がないから、歌はカラオケだったんです。でも、どこも超満員で、「何、これ」って驚きましたね。

テリー みんな待ち望んでたんですね。お客さん、泣いてませんでした?

舟木 泣いてました。「高校三年生」や「学園広場」を歌うと男性のお客さんが。その男性の顔を見た時に「俺は幸せだ」と思いましたね。その時の「ああ、流行歌手でよかった」っていう思いは、その後の僕の芸能生活の大半を決めました。「あ、これでいいんだ」っていう。

テリー おそらく、その空白の15年間って、ファンの人たちも平坦な人生じゃなかったと思うんですよ。その人たちにも、きっとツラい人生とかがあってね。それを舟木さんと会って報告できるというか。そういう思いがありますよね。

舟木 だから、最近のコンサートに来るお客さんも男女を問わず、ご自分の青春を確認してらっしゃると思いますね。「確かにあの頃があった」っていうね。そういう思いに対して流行歌手は「『自分が何十年も前に歌った歌だからもう歌わなくていいや』なんて思ってはいけないな」と。やっぱり流行歌手は、現役を引退するまで、歌い続けていかないといけないんだなと思いますね。それが流行歌手の受け持ちなのかなと。

テリー それをできる歌手って何人もいないじゃないですか。青春スターって特別ですよね。

舟木 ですね。だから、いきなり大ヒットしただけに自分ではそこらへんがまるきりつかめてないわけです。自分だって、例えば三橋美智也さんとかハリー・べラフォンテとか好きで聴きまくってたのにね。「聴く側の思いはこうなんだ」っていうのをプロになると忘れちゃうんですよ。売れると余計そうですね。

テリー なるほどね。ここ最近ずっと舟木さんがコンサートに力を入れている理由がよくわかりました。今も全国ツアー中ですよね。

舟木 そうですね。2月2日の大宮からスタートしました。

テリー 今回はどんな内容になるんですか。

舟木 変わらないですね。今、1日1回公演で、だいたい年間50日くらいやるんですね。その中で「高校三年生」から最新曲までという流れなんですけど、不思議なことにどんどん新しい歌がいらなくなってきたんです。

テリー 何でですか。

舟木 もう僕は昭和の歌を昭和の歌い手が、昭和のお客さんに向かって歌うという受け持ちなんだなというのが、身に染みてわかりましたからね。どうしても何十年も歌ってきた歌い手だと、最後の方は「私はこうして歌ってきて、今の景色はこうで、これからも力強く歩いていきましょう」みたいな歌を歌いたくなるし、書き手も作ってくるんですよ。

テリー わかります。そういう歌って多いですよね。

舟木 でもね、おかげさまでヒット曲に恵まれてきましたから、「高校三年生」「高原のお嬢さん」「哀愁の夜」「絶唱」、そんな歌を置いてるともう1時間20分、30分って経っちゃって、入れるところがないんですよね。

テリー そりゃそうだ。

舟木 だから今は、とにかく皆さんが青春時代に帰れる歌、少女や乙女に戻れる歌、青年に戻れる歌、少年に戻れる歌、それを歌っていけばいいと思ってますね。

テリー ほんとにそう思います。素敵な人生ですね。

舟木 流行歌手になって、こんなに幸せな奴はいないかなと。だから、足腰と悪運が続く限りはステージに立っていたいなと思いますね。ほんとにお客さまのありがたみも身に染みてますから。「流行歌手でよかった」––。僕の人生はその一言に尽きますね。

テリーからひと言

 舟木さん、すごくいい話をしてくれたな。俺、実は途中でちょっと涙ぐんじゃったよ。今度僕のラジオにもぜひゲストで来てください。

ゲスト:舟木一夫(ふなき・かずお)1944年、愛知県生まれ。1963年、「高校三年生」でデビュー。累計230万枚の大ヒットに。同年、「第5回 日本レコード大賞新人賞」受賞、「NHK紅白歌合戦」に初出場。その後も「修学旅行」「学園広場」などのヒットを飛ばし、西郷輝彦、橋幸夫と共に"御三家"と呼ばれた。また俳優としてもNHK大河ドラマ「源義経」、連続テレビ小説「オードリー」、「銭形平次」(フジテレビ系)など多くの映画・ドラマ・舞台に出演。銭形平次の主題歌「銭形平次」も代表曲のひとつ。2022年に芸能生活60周年を迎え、現在も年間ツアーや座長公演を開催。「舟木一夫コンサート2024」を全国で開催中。「舟木一夫コンサート 2023ファイナル 2023年11月16日 東京国際フォーラムA」DVD&CD発売中。

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