時として殺人事件に発展するケースもある、というのが遺産をめぐるトラブルだ。むろん、そこに至るには長年の確執があればこそだろうが、2017年7月に他界した作曲家・平尾昌晃(享年79)のケースはというと…。
妻で個人事務所社長のMさんと、三男で歌手の平尾勇気を含めた3人の息子による骨肉の争いが勃発し、訴訟沙汰にまで発展したのだ。平尾の死去翌年の2018年秋のことだった。
「よこはま・たそがれ」をはじ、「瀬戸の花嫁」「カナダからの手紙」など、昭和を代表する数々の名曲を世に送り出したヒットメーカーだけに、著作権印税は年間約1億円とも言われ、10億円の社屋ビルなどを含めた遺産の総額は60億円にもなるとされた。
私生活では3度の結婚歴があり、最初の妻との間に長男、2番目の妻との間には次男の亜紀矢氏、三男の勇気をもうけた。そして亡くなる4年前に再婚したのが、事務所の元マネージャーだったMさんだった。
そのMさんが印税や著作権を不当に独占相続しようとしている、として息子たちが訴訟を起こしたのだから、コトは穏やかではない。2018年9月25日、都内で公認会計士を伴い記者会見を開いた勇気は、父の形見だとする黒いジャケット姿で、怒りに声を震わせながら口を開いた。
「彼女には父の著作権料の不当な独占など、数々の違法行為の疑いがある。彼女が本当に悪いことをしているのなら、法律に基づいて罪を償うべき。もう彼女と和解するのは無理です」
勇気によれば、発端は前年10月。Mさんが平尾所有の法人2社の代表取締役に就任したのだが、実は同氏の遺産は個人ではなく、この2社が権限を持っていた。
「株主総会すら開かれないまま、知らない間にMさんが社長に就いていた。これはどう考えても納得できない」
そう言って激怒した勇気だが、東京地裁へ職務執行停止を求める仮処分の申し立てをした、とうわけである。
だが翌2019年2月、東京地裁はこの申し立てを却下。さらに勇気らが抗告した東京高裁も同年6月には抗告を却下する。ただ、勇気側の説明によれば、
「個人事務所が一括管理していた著作権料50%が遺族間の管理に移行し、全著作権料が法定相続にのっとり、管理されることになったことで、問題はおおむね決着した」
ところが、だ。終結したと思われたこの骨肉の遺産バトルは、これで終わりではなかった。なんとMさんが、勇気の会見に同席した公認会計士S氏を、名誉毀損で訴えたのである。スポーツ紙記者の話。
「会見でS氏はMさんを『後妻ビジネスの極悪非道版』と非難。Mさんとしては、公の場での発言は見過ごせないとして、S氏に損害賠償を求める名誉毀損訴訟となったわけです」
裁判の結果、東京地裁はS氏へ、Mさんに対し110万円の支払いを命じる判決を下した。「後妻VS実子」から派生した思わぬ場外乱闘が、芸能マスコミを賑わせることになったのである。
(山川敦司)
1962年生まれ。テレビ制作会社を経て「女性自身」記者に。その後「週刊女性」「女性セブン」記者を経てフリーランスに。芸能、事件、皇室等、これまで8000以上の記者会見を取材した。「東方神起の涙」「ユノの流儀」(共にイースト・プレス)「幸せのきずな」(リーブル出版)ほか、著書多数。