東北本線や常磐線が発着し「北の玄関口」として親しまれてきた上野駅。井沢八郎の「あゝ上野駅」では金の卵と呼ばれる若者が、集団就職のため上野駅にやってくる様子が歌われている。石川啄木はお国訛りを聞くために、わざわざ上野駅を訪れるという短歌を詠み、15番線の近くにその歌碑が建てられている。
JR山手線の駅の中では郷愁を覚え、駅周辺もノスタルジックな印象を受けるが、今後は大きく変わりそうだ。
東上野地区の駅前複合再開発事業の実施を目指す「東上野四丁目A-1地区再開発準備組合」が設立されたことを、事業協力者の東京メトロと大林組が発表した。
再開発されるのは台東区役所の隣、上野駅東口の昭和通りと浅草通りの交差点あたりに位置する、約ヘクタールの地区だ。2030年代半ばの完成を目指すという。
これによって上野の印象と人の流れが大きく変わると、タウン誌編集者はみている。
「上野駅の西側は東京国立博物館や上野動物園がある上野公園で、多くの観光客が訪れます。南にはアメ横商店街が延びており、こちらも観光客や買い物客がやってきます。それに比べると東口側は寂しいもので、街の存在感は薄かった。再開発されれば、上野公園やアメ横のついでに足を伸ばす人も増えるはずです。上野駅周辺で、ひとつの大きな商業圏になるでしょう」
この再開発が上野駅を救うことになるかもしれない、と分析するのは鉄道ライターだ。
「北の玄関口としての存在感を発揮していたわけですが、2015年に上野東京ラインが開業すると、宇都宮線と高崎線は上野駅止まりではなくなり、京浜東北線や山手線に乗り換える人は減りました。それに合わせるように、1日の平均乗降者数は減少か横ばいという年が続いています。東上野の再開発によって、利用者は増えるかもしれません」
東京国立博物館や上野動物園のほかにも、上野東照宮や不忍池など、観光スポットの最寄りである上野駅。2030年代半ばには、山手線を代表する駅になっているかもしれない。
(海野久泰)