同じ異物混入でも、肉体的損傷に至らなくとも精神的なダメージが大きいのが、虫や汚物などが混入している場合だろう。髪の毛や絆創膏など生理的に嫌悪感を催す時には毅然とした態度で臨むべきだ。法律事務所オーセンスの元榮〈もとえ〉太一郎代表弁護士が解説する。
「食品衛生法では、腐敗・有害物、病原微生物、健康を損なう異物を含む不衛生食品の販売を禁止しています。したがって虫の混入なども、不衛生食品の販売禁止に抵触する可能性があります」
つまり、客側は、店に対して料金支払いの拒否を主張でき、食券などで先払いしている際は返還を求めることもできるという。
ただ、ここで気をつけるべきは、呑んべえ記者のように店側が「すみませんでした」と料理の作り直しを申し出るケース。客側がこの申し出を受けてしまったら、法的にも所定の料金を支払わざるをえないとのことなので、その点は留意が必要だろう。
また、飲食の途中で壁や床にゴキブリやネズミの姿を発見して食欲がうせたなどというケースも、「あくまで精神的な苦痛のみなので、店側に金銭的補償を求めるのは難しい」(元榮弁護士)という。
食品衛生法は、当然ながら外食だけでなくぺヤングのようなインスタント食品にも適用される。しかし、外食と比べて消費者側の証拠保存は難しい。カップ麺などは中身に虫が混入していたとしても、製造工程で混入したのか、開封後に消費者が故意に混入したのかの判断がつきにくいからだ。そのため、メーカー側が「製造工程での混入ではなく、消費者が自分で入れたのでは」と反論しやすい。
もし包装開封後に異物を見つけた際には、そのままの状態で写真を撮影するというのが唯一最善の方法と言えよう。しかしそれでも、自分で故意に入れたものではないことの証明は難しい。
「あとは、被害者が悪質なクレーマーでないことを示すために、保健所などに連絡し、それを記録しておくことも有効です」(元榮弁護士)
食品に混入していた異物や毒物を知らずに摂取し、体調不良となった場合は、治療費相当額に加えて、一定の慰謝料も請求できる。
ただし、混入物に気づいて食べずに済んだ場合は、具体的な被害結果が生じていない以上、どんなに不快な思いをしたとしても慰謝料は請求することができない。できるのは、代替品との交換か、商品代金の返還をメーカーか販売店に求めることくらいだという。
最後に、元榮弁護士は消費者側の対応について気をつけるべき点を指摘する。
「体調不良の原因や証拠があいまいなままブログやSNSなどで特定メーカーの商品に異物があったことを喧伝した結果、そのメーカーの売り上げが激減するなどすると、場合によっては名誉毀損や業務妨害で逆に訴えられることもあるので注意が必要です」
いくら腹が立っても、安易にネットでクレーム被害を訴えることは控えたほうがよさそうだ。