ケンカは先手必勝、最初にナメられたら負けや! そんな気持ちの表れだったのか、33歳のボクシング世界王者・内藤大助に対し、18歳の挑戦者である亀田家の次男・大毅の鼻息の荒かったこと。公開スパーリング終了後には、
「内藤は強くもうまくもない。変則なだけ。4回戦(ボクサー)と同じ。内藤は4回戦レベルでも世界王者になれることを証明した。オレは子供(18歳)でも王者になれることを証明する」
と吠えまくったのが、2007年10月のことである。
そんな波乱含みの中で幕を開けた、10月11日のWBC世界フライ級タイトルマッチ。顔面をガードで固めて接近戦に持ち込み、得意のフックとボディーで仕留めたい大毅。それに対し、プロ35戦目の王者は、常に冷静さを失わなかった。絶妙なフェイントでかわしながら、左右のボディーを的確にヒット。言うまでなく、経験と技量に雲泥の差が見て取れた。
焦り始める18歳。そのイライラがマックスに達した時、事件は起こった。なんと大毅が、内藤が倒れ込んだすきに太腿を打つ反則や、グローブの親指部分で目を突く「サミング」を繰り返したのである。
そして最終12ラウンドには、内藤を持ち上げて投げ捨てるといったレスリングさながらの場面が展開され、試合は王者・内藤が圧倒的大差で勝利することに。
挨拶もなしに無言のまま引き上げた大毅に対し、会見で内藤は、
「反則はとにかく、うまかった。そんな練習をしないで、もっとクリーンなボクシングを磨いた方がいい。もったいない」
そう皮肉まじりにコメントしたが、この騒動はこれで終わりではなかった。なんと試合中、セコンドに入っていた兄・興毅のとんでもない指示が中継中の音声マイクに入り、全国に流れてしまったのだ。
「ヒジでもええから目に入れろ!」
明らかに反則をうながす、許しがたいものだ。当初、興毅は次のように主張した。
「あれはヒジを上げてしっかりガードして、目の位置を狙えという意味。亀田家のボクシング用語で、誤解されているようなもんやない。今のグローブはサミングできんように親指のところが縫いつけられてるから、サミングなんてできるわけあらへん。俺が大毅に反則をさせるようなことは絶対にあらへん」
当然ながらそんな理屈が通るはずもなく、亀田親子へのバッシングが沸き起こったのである。
そして10月26日、興毅は都内の協栄ジムで、金平桂一郎会長も同席する謝罪会見を開く。
「いろいろとご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした。内藤選手にお詫びしたいと思います。自分も含め、大毅と親父の言動など今までのことを深く反省しています。自分たち亀田家のせいでボクシング全体のイメージが悪くなってしまい、関係者、ファンの皆さん、大変申し訳ございませんでした」
そう言って頭を下げると、反則を指示したことを認めたのである。
「あの時は頭が真っ白になっていて、あまり覚えていません。しかし事実、映像も残っているわけで、反省しています。申し訳ありませんでした」
それまでは「ボクシング界を盛り上げる亀田人気に忖度している」との声があったJBC(日本ボクシングコミッション)も、さすがにこの問題を看過することはできず。結局、大毅には1年間のボクサーライセンス停止、父・史郎氏には無期限のセコンドライセンス停止という厳しい処分が科されることになった。
たまたま音声マイクが拾ってしまった「禁断の発言」が、まさにボクシング界を揺るがすことになってしまったのである。
(山川敦司)