上映中の韓国映画「成功したオタク」が、日本のオタクに一石を投じている。
韓国のK-POPスターが人生の全てだった女性が、その「推し」が性加害犯罪者になってしまったことで、推し活人生は失意のドン底へ。立ち直るべく、推し活仲間や同じ苦しみを味わうファンのインタビューをたどって、自分自身を振り返っていくドキュメンタリーだ。
「これが予想以上に恐ろしいのです」
と解説するのは、韓国エンタメライターだ。
「韓国のアイドルスターとファンとの付き合い方は日本とは違い、近すぎるのです。一方で、日本のファンも同じように特殊化しており、共感を覚えると同時に、これから日本はどうなっていくのだろうと不安になりました。この映画の原題は『ソンドク』、つまり『推しに覚えられるほど熱心なファンになった』という意味ですが、英題は『FANATIC(熱狂的)』です。実際に起きた集団性的暴行容疑などで実刑判決を言い渡されたチョン・ジュニョンの事件がモチーフになっており、このジュニョン推しだったオタクが、オ・セヨン監督です。要するに、自身の体験を投影させて、作品を作っている形です」
事件を機に推しのことが嫌いになったセヨン監督は、絶対に許せないという立場でこのストーリーを進めるが、深いテーマとしてあるのは「彼を待つか、待たないか」。「(事件を)信じない。本人の口から聞くまで待っている」という心情がどこかにはあるのではないかと感じるとともに、やはり否定的な感情があらわになる。これを日本の事件になぞらえると、
「旧ジャニーズ性加害事件で、ファンの間では、ジャニー喜多川氏の性犯罪を信じない、という姿勢がありましたね。タレント本人でなくとも、庇ってしまう。日本はどこか、待つ文化があるように感じます。このところ『待ち活』というのも、日本のK-POPファンの間に浸透しているようですし」(前出・韓国エンタメライター)
兵役に行った「K-POPの推し」をいかにして待つか、そのものズバリの「待ち活」なる書籍も、最近になって発売されている。
オ・セヨン監督は事件発覚当初は信じなかったと語り、自身のSNSでも、彼を待っている側のファン心理を映画で描きたかったと告白している。が、やはり「悪は許せない」という気持ちをブレずに表現した「成功したオタク」。ヒット作の監督となった今こそ、本当の意味で成功したのではないだろうか。
(小津うゆ)