伊藤信太郎環境相は、閣内では目立たない存在だった。ところが熊本県水俣市で5月1日に行われた水俣病の患者・被害者団体らとの懇談中、環境省の担当者によってマイクが切られ、被害者らの発言が遮られた問題で、大臣自ら謝罪に追い込まれた。皮肉にも、これで一気に注目を浴びる存在となったのである。
伊藤環境相は5月8日に再び水俣市を訪れて当事者らと面会すると、
「大変申し訳ないことがあった。心からお詫びする。深く反省し、環境省全体としてお気持ちに添えるよう取り組む」
この謝罪だけを見れば、トップとして潔いように思えるが、「別の顔」があることを、2020年6月に「週刊新潮」が報じていた。
それによると、六本木の国立新美術館や東京ミッドタウンのほど近くに開店した焼肉店とトラブルを起こしたのが、ほかならぬ伊藤氏だった。隣接した一軒家に住む伊藤氏は店から出る煙や臭い、音にクレームをつけ、挙げ句の果てには「ダクトや排気ファンを使うのなら、1日あたり150万円を支払え」と「あまりに法外な要求」(店主)を突き付けてきたという。2019年3月には営業中だったにもかかわらず、伊藤氏が店に怒鳴り込みに来たこともあったという。
店主は「週刊新潮」の取材に対し、「伊藤議員は折衝時に『焼肉店は公害をまき散らすのに、なぜここに作ったのか』と口にしていた。そんな見下すような言い方をして、ギリギリで耐えている飲食店をイジメるのはどうかと思います」と語っている。
これを覚えている人は、伊藤氏が5月1日の会合で見せたのが「本当の顔」であり、謝罪は「ポーズ」だというのがよくわかるだろう。
ニュースサイト「SAKISIRU」編集長を務めた新田哲史氏はXに〈(1日の)場面で職員を叱りつけておじいちゃんに最後まで話をさせたら、株が一気に上がったのにな。そういう局面の一瞬の判断に政治センスが問われる。あれじゃいかにも官僚のお膳立てに載ってるだけの“ロボット大臣”の印象そのもの〉と批判した。
環境相を続ければ続けるほど、「聞く耳」をアピールする岸田文雄政権にはふさわしくない人物だということが浮き彫りになり、政権の足を引っ張ることになるだろう。
(田中紘二/政治ジャーナリスト)