毎月12日、そして10月2日は「豆腐の日」とされている。豆腐は東アジアと東南アジアで古くからある大豆の加工食品で、中国本土や日本、朝鮮半島、台湾、ベトナム、カンボジア、タイ、ミャンマー、そしてインドネシアなどで日常的に食されている。
加工法や調理法は国ごとに違う。日本の豆腐は白く柔らかい食感を持つ「日本独特の食品」として発達してきた。
その豆腐と縁の深い、曽谷学川(そだに・がくせん)という江戸時代中期の篆刻(てんこく)家をご存じだろうか。篆刻とは主に印章を作成する行為のことである。
元文三年(1738年)、京都で生まれた学川は高芙蓉に師事し、古体派の篆刻を学んだ。細合半斎の学半塾にも入門して経学・詩文も学んだ文化人だが、彼を一躍有名にしたのは、醒狂道人何必醇(すいきょうどうじん・かひつじゅん)という戯号で出版した「豆腐百珍」「豆腐百珍 続編」というグルメ本を発行したことだった。
版元は大坂の春星堂藤原善七郎(藤屋善七)。この「豆腐百珍」シリーズは、当時の料理文化を知るための貴重な資料で、大ベストセラーだ。
天明二年(1782年)5月に出版され、100種にも及ぶ豆腐料理の調理方法が掲載、6段階に分類・評価されている。
その6段階とは、どこの家庭でも調理される「木の芽田楽」など、尋常品26品、調理法が一般に知られている通品10品、見た目の形もきれいな佳品20品、ひときわ変わった奇品19品、奇品に少し優る妙品18品、そして妙品に優り、珍しさや盛りつけのきれいさにとらわれることなく、ひたすら豆腐の持ち味を引き出す絶品7品だ。
夏の食卓の定番である「やっこ豆腐(冷や奴)」や、すき焼きに入れる「焼き豆腐」は通品に分類。一方で湯奴、つまり「湯豆腐」は、最上位である絶品に分類されているのが興味深い。
この「豆腐百珍」に触発されたのか、蒟蒻(こんにゃく)珍人と名乗る人物が「蒟蒻百珍」という本を出版するなど、その後、類似本が続出したという。
(道嶋慶)