大谷翔平は二刀流を断念するのか。日米の野球ファンがザワついた記事が配信されたのは、日本時間5月13日のこと。USA TODAY紙の名物記者ボブ・ナイチンゲール氏が「ドジャースから要請されれば、大谷は将来的に投手を諦めてレギュラーの外野手になることに逆らわない可能性が高い」と報じたのだ。ナイチンゲール記者はその根拠として、
「大谷は明らかに打撃が好きで、おそらく球界でも最高の打者だが、大谷に近い関係者は『大谷は打撃と同じレベルの情熱を投手には持っていない。単にできるから二刀流をやっている』と語った」
としている。
大谷は昨年9月、右肘靱帯を損傷。自身の腱と人工腱の両方を移植する、ハイブリッド手術とみられる靭帯再建術を受けた。患部の固定とリハビリが順調にいけば、二刀流の復活は来春となる見込みだが、今年3月のキャンプでは、大谷が外野用のグローブを持ってトレーニングしている様子が目撃されている。
大谷は投手としての復活を諦めるというのか。ここでナイチンゲール記者が「将来的に」と前置きしているのがポイントだ。今は二刀流復活を目指しても、将来的には大谷が投手から外野手に転向する方が、むしろ現実的と言える。
というのも、大谷の主治医ニール・エラトロッシュ医師の恩師で、ドジャースの医療コンサルタントを務めていたフランク・ジョーブ博士が投手本人の腱を自家移植して靭帯を再建する「トミー・ジョン手術」を考案した当時、この手術は何度も受けられないと言われていた。ところがジョーブ博士の遺志と技術、病院を継いだエラトロッシュ医師らが、人工腱で強度を保ちつつ、自身の腱で靭帯を定着させるハイブリッド手術を考案。もし大谷が来季、投手として復活した暁には、ジョーブ博士がトミー・ジョン投手の名をそのまま術式名に冠したように、エラトロッシュ医師は世界に先駆けたハイブリッド手術の術式に「ショウヘイ・オオタニ手術」と名付けて、医学界にも大谷の名を残すかもしれない。
大谷が右肘にメスを入れたのは、2018年10月にトミー・ジョン手術を受けて以来、5年ぶり2度目だった。投手が野手以上に利き腕の筋肉と関節を酷使するのは言わずもがな。最初の手術から2度目の手術までのスパンが5年であったことから、大谷はドジャースと10年契約を結んでいる契約期間中に再度、右肘の靭帯再建術を受ける可能性がある。過去には4回も靭帯再建術を受けた投手がいるが、投手として復活するには1年以上のリハビリ期間が必要だ。
そう考えると、もし大谷投手が3度目の靭帯再建術を受けることがあれば、外野手に転向して打撃に専念するよう、大谷と球団、そして主治医で話し合った上で移籍契約に盛り込んでいる可能性すらある。
なにしろ、今季がリハビリシーズンであることを忘れさせるほど、三冠王も狙える好成績を残している大谷。3度目の手術で30代の貴重な期間を長いリハビリに費やすより、打者に専念して1年でも長く選手生活を続けることを、大谷本人が望んでいるのではなかろうか。
もちろんファンが望むのは、エンゼルスよりも戦力が充実しているドジャースで、大谷が3度目の靭帯再建術を受けることなく現役生活を全うすること。大谷がいつまで二刀流を続けるかはわからないが、投手として復活した折には、その一球一球を心に刻みたい。
(那須優子/医療ジャーナリスト)