大谷翔平はメジャーリーグだけでなく、医学の歴史も変える。
日本時間12月15日8時から開かれたドジャース入団会見。大谷が壇上から降りた後、代理人のネズ・バレロ氏が「大谷が受けた手術について」記者団に詰められるひと幕があった。
大谷本人は「トミー・ジョン手術を受けたのか」という記者からの質問に、次のように返答した。
「術式が前回と違うので、それをどういうふうに表現するかは、ドクターの方が詳しいと思います」
執刀医のエラトロッシュ医師は入団会見より前に、現地メディアに対し、
「リハビリは予定以上に順調に進んでおり、来年9月には登板も可能」
と、やや前のめりな発言をしている。
会見と関係者の話で改めてわかったのは、大谷が受けたのは「トミー・ジョン手術ではない」ということ。一部が断裂した右肘の靱帯に、自分の腱と人工靱帯「インターナル・ブレース」の両方を被せ、断裂した靱帯を再建した上で補強する、従来の「ハイブリッド手術」に創意工夫を加えた「新しい術式」の可能性が高い。
ドジャースのチームドクターであるエラトロッシュ医師と大谷、バレロ氏がここまで手術内容を明かさないのは、大谷のプライバシーへの配慮もあるが、エラトロッシュ医師が新しい術式を考案し、その知的財産を守るためとみるのが妥当だろう。
自らの腱移植は耐久性に優れている一方で、肘関節の骨に穴を開けるため、復帰までに時間がかかる。人工靱帯は「インターナル・ブレース」と総称される固定具で関節に定着させることで復帰が早まるが、耐久性と長期成績に不安がある。両術式の長短を補ったのが、ハイブリッド手術だ。デトロイト・タイガースの前田健太が2021年に受けたのが、自らの靭帯を修復した上で人工靭帯を被せる「ハイブリッド手術」だった。
今年はWBCで優勝し、夏場には全身の筋肉が痙攣を起こすほど、フィジカル面で己を酷使していた大谷だが、筋肉に疲労が蓄積すれば肩と肘に負担がかかる。今後10年間、ド軍のワールドシリーズ制覇のため投打二刀流を続けるつもりなら、自分の腱と人工靱帯と「最先端の医療デバイス」を併用して「大谷自身の腕力に引きちぎられない丈夫な腱」を再建する必要がある。
ちなみに「トミー・ジョン手術」を考案したのはエラトロッシュ医師の師匠で、日本でも有名なフランク・ジョーブ博士。1974年、ドジャース所属のトミー・ジョン投手はエクスポズ戦で左肘の靱帯を断裂した。野球人生はもちろん、日常生活も困難になるのではと絶望視される中、世界初の腱移植手術で2年後にメジャー復帰。プロスポーツ史上、最も有名な手術名を残すことになった。
初のトミー・ジョン手術からちょうど半世紀後の2024年、大谷の復活劇に合わせてエラトロッシュ医師は「ショウヘイ・オオタニ手術」を世界に発表するのではないだろうか。
(那須優子/医療ジャーナリスト)