中学3年で柔道を始め、全日本女子柔道選手権選手権を3連覇。女子プロレス入りしてからも、その強さは向かうところ敵なし。強すぎて対戦カードが組まれず、往年のスターであるジャッキー佐藤を引退に追い込み、大きな話題になったのが「ミスター女子プロレス」の異名をとる神取忍だった。
その神取が突如として参院選に自民党からの立候補を表明したのは、投票日の1カ月前にあたる2004年6月10日のことだった。逆立てた金髪に真っ白なスーツ姿で出馬会見に登場した神取は、
「このたび参院比例代表、自民党から公認がおりまして、出馬いたすことになりました」
と口上を述べた後、おもむろに切り出したのが、次の発言だった。
「年金、払っておりませんでした」
折しも政治家や芸能人らによる年金未納問題が取りざたされていた時期。あとでバレるよりは、最初に告白しておいた方が得策と考えたのだろうが、集まった政治部記者からは、矢継ぎ早に質問が飛ぶことに。すると神取は、
「正直言って、細かいことはわかんないんだよね。そんな終わったことより…これから社会に飛び込むんで、わからないものをわかりやすくしようよ」
あたかもわかりにくいシステムに問題がある、と言わんばかりの迷言を繰り返す。最後にはこう言って、胸を張った。
「今日は決意表明なので、公約は公示前に発表させていただきたい」
とはいえ、当時の彼女は女子プロレス界のトップレスラーであると同時に、女子プロレス団体LLPWの社長という肩書があった。
「つまり、リングの外では社会人でもあるわけですからね。にもかかわらず、年金がわからないから勉強しますと言われてもねぇ。会見に集まった記者たちからは、それじゃ税金の無駄遣いだろう、という声が出ていましたね」(現場を取材した政治部記者)
だが、プロレスの試合の合間を縫った選挙活動の健闘もむなしく、比例区で12万3531票にとどまり、16位で惜しくも次点に終わった。
ところが、である。生まれ持った運に恵まれているのか、これまでの人生で培ってきたしぶとさがなせるワザなのか、なんと77万票余りでトップ当選した竹中平蔵氏が小泉政権の終了に伴い、議員辞職を表明。神取が繰り上げ当選するのだから、人間の運命というのはわからないものである。
「やっぱり、リベンジ果たさないと。負けず嫌いだからね」
そう語った神取は、未納だった年金保険料を支払済みだったそうである。
(山川敦司)